2012年11月17日

クラシックスなものが大好きなあの人のコマンド その2

クラシックスなものが大好きなあの人のコマンド その2
こうして見ると、コマンドの構造が良く分かる。お互いが独立した動力源となるエンジンと、右下にあるギアボックス。それをつなぐ黒いエンジンマウントに直接取り付けられたスイングアーム。
他の英国車にはない、一連のものがコマンド最大のアイデンティティー。
ノートンヴィリヤーズ社の経営を10年間は先延ばしにした優れたシステムと言える。
クラシックスなものが大好きなあの人のコマンド その2
写真は前方のマウント部のラバーの各部品達だ。上が取り外したもの。下がこれから入れるものだ。
最近では後の調整が安易に行えるアジャスト式のものを取り付ける事が常となってきた。
しかし、私のコマンドでは、未だにシムで調節するスタンダードを踏襲し続けている。
クラシックスなものが大好きなあの人のコマンド その2
写真は他車のものだが、酷いモノになるとこうなる。ラバーも変形硬化し、調整用のシムも錆びるどころか朽ち果てている。更にここには大切な樹脂製の緩衝材があるが、それも変質と振動によって崩れ去っている。
作業は、事細かな処理と経験を加味し適切な整備を心がける。コマンドの上質且つ感動的な走りを実現する為の核となる部分だからだ。走る事が好きな彼の為に、他にはない楽しいコマンドの走りを体験してもらうために、絶対に一味違う上質さを加えてやる.....そうずっと思っている。
クラシックスなものが大好きなあの人のコマンド その2
これは、スイングアームの軸受け部分。長年の使用で摩耗変形し、隙間が歪に出来ている。
只軸受けを交換するだけの単純そうな作業だが、ここも新品を単純交換するだけの仕事は通用しない。
修正、調整或は作り直してまでやり抜くべきところ。きつすぎても緩すぎてもいけない、手抜きは出来ない部分なんだ。アイソラスティックと並んで丹精込めて作業するべきところなんだと心に留めていて欲しい。
クラシックスなものが大好きなあの人のコマンド その2
そうして納得の状態とし、取り付けたスイングアームを後方から見る。
クラシックカーの世界では、こうして完成後に見えなくなる部分を真面目な仕事でやり抜く事。
これが大切だ。中央下部に見えるのがセンタースタンド。
このセンタースタンドの事を皆さんは一度でも気に掛けた事があるだろうか?答えはノーだ。あって当たり前のものでしかない。
クラシックスなものが大好きなあの人のコマンド その2
だが、半世紀前に造られた英国車ではスタンドの類は頻繁に壊れるものなんだと知って欲しい。
写真の右側がスタンドを立てている時の当り部分だ。変形摩耗しているのが見える。それを受けるスタンド側も同じように摩耗変形しているんだ。
こうなると、車体を立てても高さがでない。最悪の場合立たなくなるわけだ。そして、左側にある変形摩耗した部分は、走行時、スタンドをたたんでいる時に当る部分。コマンドの強大なバイブレーションと走行時の振動等によってここまでになる。
クラシックスなものが大好きなあの人のコマンド その2
下が作業中のその部分。上がその以前の部分。ここで、これだけの違いがあると、かなりの影響があると誰にでも分かる。現代のバイクでは、スタンドの摩耗変形など皆無かもしれない。ドーンと乱暴に扱う事が格好いいなんてそんな馬鹿なシーンも当たり前の如く見受けられる。
クラシックスなものが大好きなあの人のコマンド その2
こうして、溶接肉盛りに修正をして、本来の姿にもどしてやる。そうすると、素晴らしく使いやすくなる。
スタンドとはいわゆるテコの原理だ。少しの寸法の違いが大きな力の差を生む。非力な人には、大切な事だと言えよう。
そして、これら750ccモデルでは元々スタンド自体の剛性が低く、ねじれが頻繁に起こる。踏んで折れてしまう事もざらにある。よって彼のものには補強を入れて剛性を上げている。傍から見て分からぬような配慮もした。
スタンドの軸受けのカラーやボルト類も一新して将来の使用に対処した。
英国車とは壊れやすいもの。スタンドを立てる時にもゆっくりと静かに行う。スタンドをたたむときにもそーってしてやる。何時の時にも、優しい扱いをしてやる。それが英国車乗りの鉄則だ。

クラシックスなものが大好きなあの人のコマンド その2
そして、フロントフォークの作業に入る。これも、届いたパーツをそのまま組んでもダメなものの代表格だ。
過去に蓄積した様々なノウハウを込めて作業する。分かる人なら分かるだろう。この時代にこれほどまで構造を持っていると言う事を。今の時代の基礎を築いたフロントフォークの名品「ロードホルダー」。現行車だけが最先端などとは無知の証。知っていて損はない。
クラシックスなものが大好きなあの人のコマンド その2
プロダクションレーサーを造る場合、部品を注文するだけでは完成などできない。こうして、各種の部品を造らなければならない。手間のかかる工程も、他のコマンドにはない満足感としてオーナーに届けたいと思う。
クラシックスなものが大好きなあの人のコマンド その2
これは、スタンチォンの上部に取り付けるカラ―。本来、多くのアロイ(合金)パーツは英国車には似合わない。しかし、当時の最先端としてノーヴィルパーツにそれが採用されていたプロダクションレーサーでは、唯一似合う。ダンパーのカートリッジやトップのキャップなど幾つものパーツをオプションで開発した。マンクスの時代では、とにかく何でも取り外す。不要なものは取り付けない事で軽量化を果たした。コマンドではアロイ製パーツで更にそれを求めた。こうした違う手法の変遷に興味が尽きない。そして、イタリア車と対等に戦い、そしてメードインジャパンに歯が立たず、やがて葬られていく。そうした時代の証が、こうしたアロイパーツに込められているんだと思ったりすると2倍楽しくなる。それが英国車のロマンなのかなと、当時のパーツを手にしながら、私は思っていますよ.....
クラシックスなものが大好きなあの人のコマンド その2
こうして完成した2本のフォーク。当時ではめずらしく常に車体に対する最先端の意識と技術を持っていたのがこのノートンビリヤーズ社だ。先のマンクス系のフェザーベットフレームにこのロードホルダーフロントフォーク。遂に訪れた750ccの大排気量時代に対応したアイソラスティックマウントシステム。それらがノートン社の最先端技術の証。
だが、面白い事にそのレース活動の功績と本業の業績とはかけ離れている。ノートン好きの私ですらコマンドまでの一連の市販車には大きな魅力のある車種を見つける事は難しい。レース活動ばかりして市販車の販売には実績が伴わない。遊んでばかりいて、つまらない仕事は好きじゃなかった!そんな我がままで子供のような会社、それがノートンビリヤーズ社の実態。面白いメーカーだったんだ.....
クラシックスなものが大好きなあの人のコマンド その2
これは、ヘッドステディーと言われる三つ目のマウント部分だ。手に持っているのが750ccのスタンダード。装着しているものがノーヴィルパーツのスペシャルだ。これは振動的な対応以上にスイングアームのよじれに寄与している。こいつがダメになると、途端によじれる。因みにこいつを外して走ってみるといい。走りだした途端に直ぐにその機能が分かるはずだ。
クラシックスなものが大好きなあの人のコマンド その2
これは、エキゾーストシステム一式の位置合わせをしているところだ。プロダクションレーサーのそれは、ロードスター等とは違い車体にぴったりと寄り添い出っ張らないファストバック系のスタイルをしている。前方から見ると全く外に張り出さない。その位置関係が絶妙であり、プロダクションレーサー最大のこだわりの部分となる。
クラシックスなものが大好きなあの人のコマンド その2
だが、英国製部品をなめてはいけない。これが、箱から出してそのまま取り付けた位置だ!
まさにメードインジャパンでは信じらけない光景。
「これで顧客に渡せるか?渡せんだろう!!」.....さすがの私もそう思う。
そして、これだけじゃない。全ての英国製部品にこうした事実があるわけなんだ。
クラシックスなものが大好きなあの人のコマンド その2
バーナーを片手に炙りだし、適切な位置に合わせて行く。こうして少しずつプロダクションレーサーの美しさを造り上げて行くわけだ。
けれど、元々のプロダクションレーサーでもここまで均等ではなく相当に適当だ。現代のバイクのように必ず対照であるという理屈は、当時にはない。特に英国車では、エンジンやペダルなどの左右に大きな違いがある。よって、左右のものが結構非対称であるのが英国車の常識だと理解して欲しい。今ではこうだろう?と断言できるものでも正反対に取り付けられていたりする。ずっと奥深くこの英国車の世界に入り込むとそこがまた楽しめるポイントとして微笑ましくなってくるんだ。
なので、彼のこのエキゾーストシステムのすっきりした感じは、少し揃え過ぎたかな?と言えなくもない。
その後、クロームメッキをかけて仕上げた。

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Posted by nunobiki_classics at 16:06 │作業完成報告 ノートン編