2020年03月01日

1975 NORTON COMMANDO 850 Mk3 Roadster プチ報告その6


販売用車両の整備、水面下でこっそり進行中。今回はエンジンのボトムを作業を致しました・・・


この総重量10㎏を超えるダイナミックさがコマンドの魅力の源・・・


ツインエンジンとしては長い89mmのストロークに77ミリのビッグボアで360度クランク、その衝撃とは半端じゃない。


6本だったスタッドボルトも7本に追加、同時にダウエル性も強化され万全のモノとなる‥


これは、コネクティングロッドのキャップ側のシェル、右が古いモノで摩耗の跡がはっきりと分かる。そして、左が新しいモノ(グリス塗布)、ここのオイルクリアランスは大切なんです・・・


発売当初から亀裂に破壊するなどトラブルメーカーだったコマンドのクランクケース、強度以外に、実はオイルライン的にも不可解な設計がずっと続いていた・・・


ノントラブルなメードインジャパンを意識し後手後手ながら改良を続け遂に満足できるモノが完成したのは、ファイナルモデルとなったこの850Mk3が最初で最後なんだ・・・(悲しい…)


カムシャフトの端面に出ていたカエリを旋盤で軽く修正し・・・


クランクシャフトと共にケース内に挿入・・・


そして、フロントのアイソラスティックのラバーを交換・・・因みに、このスラスト方向のクリアランス調整の式は850Mk2まではシムの交換、それをスクリューを設けアジャスト可能に改めたのはこのMk3が最初・・・


で、脱着せずに調整可能になったMk3タイプがデリバリーされているので、750や850Mk2に於いても是非使ってみて欲しい・・・


そして、コマンド850Mk3のエンジンボトム、完成致しました・・・こうしてみると、500で始まったノートンツインも設計的には異常な排気量である850となってしまう。今更ながらアイソラスティックシステムの重要性が見て取れる・・・



750に比較してトルクの大きな850は当然ながら発する衝撃も大きいからボトム廻りの整備こそ入念にしなければならない。クランクピンにシェル、コネクティングロッドの両エンド・・・そして、安全安心を担保して末永く愛用するためにコマンドを所有しようとするなら850Mk3のクランクケース以外に選択の余地はない・・・
  

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2020年02月13日

1965 TRIUMPH T120R プチ報告その4


Aさんのボンネヴィル、車体の分解作業していますよ・・・
ホイール外して、フロントフォーク外して、車体を洗浄して・・・


スイングアームに、プロップスタンドに、ブレーキトルクステイも取り外しました。


1965年製のブリティシュではこのような油汚れがびっしりとこびりついているって、これ普通よりも全然マシな方なんです。


ステアリングのベアリングはスーッと軽やかな作動でなければなりません。こうした古いベアリングでは、使えないモノがほとんど・・・しかしこれ、グリスの硬化だけでボールやレースには摩耗なし!イイ感じです。


エンジンも大方の部品を取り外し・・・


降ろしましたよ・・・

では、ご報告 優良編です。
・エンジンは一度も降ろされた跡がない(変にいじられていない事は大切)。
・各スタッドボルトやナットにワッシャーなど新車時のモノ(上質な車両が作れる)。
・当時の亜鉛メッキの残るボルト類が嬉しい(同じく)。
・ステアリングは古いグリスの硬化のみで状態良好(これも嬉しい)。
・フロントフォークは何度か分解された後があるもののそれなり(普通より断然良い)。
・スイングアームは、摩耗がなく良好な状態(よしよし…)。

次に、ご報告 悪い状態編・・・
・フレームの塗装に手塗りの修復跡が多々ある(質感悪い)。
・シートレール部分に穴を開けた跡がある(シーシーバーの跡)。
・センタースタンド、プロップスタンドに曲がりや欠損がある(トラでは普通の事)。

そして、今後の方向性は・・・
・シートレールやスタンド類に溶接修理が必要なのと、手塗りの跡を考慮しフレームなどブラック系の塗装を決行する!(予算心配納まる?)
・エンジンは至極良好なので普通に進めて行ける(好材料、超嬉しい)。

次は、ブラック系の塗装パーツの準備作業を経て塗装を行います!では・・・松枝

  

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2020年02月05日

1958 NORTON DOMINATOR 88 長野県Tさんプチ報告その17


こうした世界でのぺトロールタンクの取付方は極めてテキトウだ。この88はその中でもトップクラスのいい加減さ、ラバーを巻いて「はい、おしまい…」 とてもじゃないがこんなんじゃ乗れない。


触ればよれよれと動くタンクを可能な限り改善しようと思う。で、前方にはレース用のラバーを配し、なんの取っ掛かりもない後方には幅の広い受けを作る事にした・・・


先ず、メインフレームにメンバーを溶接する・・・


別に作ったブラケットを載せる・・・


で、位置決めの後中央部分を切り取り、タンクとの接触面には10mm程度のラバーを貼る、こうすれば軽くなるし並行度も決まり、更に将来の変更にも対応し易い。そしてここのポイントはブリティシュのボルト&ナットだ・・・


で、一枚のアルミ板を曲げて巻いていただけの留め具は、分割しフライス加工による長穴加工を施し調整機能を与えた。


これでやっとこの88のタンクもぐらぐらと動くような事はなくなった。固着していたぺトロールタップやホースも交換し見違えるほどイイ感じになった。


一般道を走るにはスタンドは大切な存在だ。角度に合わせて底面を削られたこれはどう見ても削り過ぎ、ハンマーで軽く叩いてみればこのありさままだ・・・


厚みのある鉄板をおおよその形に切り取り溶接していく・・・


状況にもよるが、肉盛りしていくよりも、こうする方が結果は良くなる・・・


塗装をして・・・


誰が見ても恥ずかしくない姿に戻った・・・


この88にはリアの隙間が45ミリ程度しかない。リジットモデルじゃあるまいしスイングアームモデルでは非常識だ。そして、軽量化の為とアルミ製のマッドガードがついているが、その辺りも普通に走れるようにしなけりゃならない・・・


一般道では是非スチール製にして欲しいものの、もう使っているんだから仕方がない。上に載せているトライアンフ用のライセンスプレートの重量がアルミ製のマッドガードに振動と共に容赦なくのしかかる・・・


せめてその負荷をシートレール本体に載せてやらなきゃ・・・


数か月の寿命のアルミ製を少しでももたせると共に、シートレールの固定穴を加工しホイールトラベルも十分なモノとした。


そして、この他にも本当にくたびれる程多数の作業を行いその山場は超えた・・・そして継続検査も受けた。後は試運転に出掛けようと思う・・・




  

Posted by nunobiki_classics at 20:38作業中車両のプチ報告

2020年02月03日

1958 NORTON DOMINATOR 88 長野県Tさんプチ報告その16


古いモーターサイクルの多くは、こうしてエンジンとギアボックスが独立していてそれをチェーンで連結する。そして、今日のサンデーレースなどでは強化繊維の織り込まれたベルト駆動が広く利用されている。


この88は、スタンダードのカバー類が取り外されたいわゆるオープンプライマリーだ。


見ると、センターナットにはワイヤーロックが複数かけられ、締めても締めても続くナットの緩みに、ずっと悩まされていたようだ・・・


で、ここには走行中のスロットルの開閉により激しい応力が集中する。なので、大きなスプライン加工が施されている・・・実は、元々ドミ系のここにはウイークポイントがあるんだ・・・


スプラインを良く見てみよう・・・ヘコミとデッパリの幅が違う事が分かるだろうか?・・・これは、メインシャフト側を保護しクラッチセンター側に負担が多く分配されている格好だがこれがドミ系の弱点となる・・・次にその奥を見ると、どん突きになっているね?要するにナットを締める事によりこのどん突きの面とメインシャフトの端面を締結する格好だ。だが、一点に応力が集中するこのやり方もスプライン同様弱点となる。


で、コマンド系ではそのどん突きを廃止し軸に対してフリーとした。そして、ギアボックス側にロケーションサークリップとカラーを使った固定場所を設け応力を分散させる。更に、スプラインの幅を同じとし、それ以降、ドミ系の弱点である編摩耗と緩みは解消したと言う訳なんだ。なので、この部分のドミ系とコマンド系には互換性はない。


これはこの88だ。おかしいと思わないかい?・・・驚いた事に互換性のないドミ系とコマンド系を合わせてしまっている・・・これではいくらナットを締めても緩み続けて当然の状態だ。


この写真を見て、怖くならないかい?・・・長いメインシャフトの先端に片手で持てない位の重いクラッチが載っている。更にスロットルの開閉で激しく前後に振られる、それが走行中に高速回転するんだぞ・・・「こんなに危険な状態なんだ・・・」そう思ってしかるべきだ。


最近では、一般の素人さんでも手軽にバイクの整備をやるようになったとか・・・こんな時代だからユーチューブを見れば即整備士クラスになれるらしい・・・インターネットで調べれば即ベテランの整備士になれるらしい・・・だがな、この重いクラッチがサーキットコースで飛んで行ったなら・・・路上の通行者に当たってしまったなら・・・一体どうなると思う?・・・サンデーメカニックの皆さん、やっていい事と悪い事があると明日から肝に銘じて欲しい。


そして、製造元のボブニュービーレーシング社に連絡をとると、これは当社の初期のモデルだから危険だと新調する事に・・・届いたモノを見ていると「イギリスっていいよなぁ…モノがいいよなぁ…」 モータースポーツの聖地イギリスってやっぱりいいんだよなぁっと思う訳。 ボブニュービーレーシングは→コチラ


古いブリティシュのクラッチとは比較しようがない位に出来が悪い。だから、こうした精度の高いモノを入れることによって安全性がすこぶる高まる。他人事ではないと皆さんにも認知してもらいたい。


皆さんはたかがクラッチだと思うかもしれない。しかし、エンジンが5千回転廻ればここはおおよそ2.5千回転廻る。その回転の勢いとはタコメーター如きのモノじゃない。だから私はこうしたオープンプライマリーなど大反対だ。万が一、取り返しのつかない事になったならどうするんだ。
けれど、今回は修理の依頼だからオーナーの意向を曲げてまで仕事をする事もそれにそぐわない。しかし、何れの日にか「カバーつけましたよ…」 Tさんがそう言ってくれる事を期待したい・・・



  

Posted by nunobiki_classics at 01:02作業中車両のプチ報告

2020年01月27日

1958 NORTON DOMINATOR 88 長野県Tさんプチ報告その15


ここまでことごとく不具合が続いているから、この先波風立てずに進んで欲しい・・・それが今の率直な想いだ。


「これも怪しいなぁ…」オリジナルの88は376のシングルで、この88はシリンダーヘッドと共に換装され930ツインとなっている、が・・・


それは私の想像を超えていた。二基の930の内部はまるで子供のおもちゃのように下品な作業が繰り返されていた・・・


結局、何年も続くオーバーフローの対処ができなかったこの930。樹脂製のフロートの先端を曲げフロートレベルを下げようと試みる・・・悪いがそれでは想定通りの効果は得られない。


のぞき込むとフロートバルブのシートの位置がおかしい 「ふ~ん・・・なるほど・・・」油面の高さと各部の位置関係は絶対で、素人がああだこうだとやるべき話じゃない。フロートの爪を曲げて上手く行かないからとシートを叩き上げる人間が一体何処にいる?


「どんなキャブでも俺の手にかかればいちころさ、俺様の手はゴッドハンドなんだよ、えっへん…」この作業を行い、さぞ満足鼻高々だったろう。だが、その前にやるべき事があるだろう・・・


メインのノズルにも違和感がある・・・本来ここは性能やフィーリングに直に影響する最も重要な箇所のひとつだ・・・


左のメインジェットの穴から燃料が吸い上げられ→ホルダーを通り→ニードルジェットでメインのエアーとエマルジョン状態の混合気となる。ニードルの形状は先細りのテーパー状となりスロットル操作に忠実に意を反映する。で、加工されたノズルは流速の変化に影響されることなく安定して混合気を噴出させる言わば保護的な守りのパーツだ。


左がこの930のモノで右がスタンダード。


「なんとも・・・」


僅かな寸法や角度でどえらい影響を与えかねない超デリケートゾーンにこんな幼稚な工作をする無神経さに脱帽だ・・・で、どうせやるなら真っ直ぐにつけなきゃイケないだろう?違うか?・・・


御覧のように30mm径のベンチュリーは大幅に拡大されている・・・更に、細く→太く→細くと、30~34mm位の幅でベンチュリー、マニーホールド、ヘッドのポートと一貫性がない、もう…なんで?・・・(奥に限界を超えた大きな摩耗がある状態がチラッと見えている・・・)


フロートバルブシート本体の位置を変え、ベンチュリー径は雑に拡大され、スロットルボディの摺動部はサンドペーパーで過大にやすられ、ジェット類は手やすりで加工され、各合わせ面は大きく歪み、更に左右でのバラつきも大きい・・・このような「基準」となるものをことごとく乱したモノをどうやって整備しろと言うんだ・・・


「出来るだけの事をして一度エンジンを掛けてやろう…」 機能を破壊された哀れな930の気持ちを考えると無性に腹が立ってきた。もう一度命を吹き込んでやりたい・・・そう思うから何時にも増して丁寧に仕上げよう、大きな歪はこうして砥石で丁寧に面を出してやろう・・・


オーバートルクではあっという間に曲がってしまうこれらには、この世界ならではの「低トルク」にて締結。これもアマル社製キャブレター整備の「基本」だ。


だが、このフロートの合わせ面への過度の研磨は避けたい。フロートのピンもある、フロートレベルにも影響する。最低限度の面取りと同じく「低トルク」で締めつけたい・・・


そしてエンジンをかけた・・・「ドッドドッドドッド・・・スッポン・・・ズッズッズッズッ・・・バッバッバッバッーーーン・・・プスン・・・」 何をやっても調子は出ない、分かってはいたがやはり駄目だ。内部をいじり倒された930は最早その機能を完全に失っている・・・直接の原因は本体の過度な摩耗だが、無知な作業が更に拍車をかけてしまった。可哀想だがこの哀れな930の再生に不本意ながら見切りをつけたんだ・・・


新しいキャブレターは、今の流れからすると376や928が一般道では最適だ。しかし、ヘッドのインレットポートを大きく拡大されているからそれも使い辛く、932では到底大き過ぎる。結局、元の930を選択するしかない。


参考までに・・・レーサースタイルに必須のベロシティスタックの話だが、元の930には三方からスクリューで固定する式をとっている。私も顧客の車両に装着する、その理由はカッコイイからだ・・・


しかし、過度な締め付けや度重なる脱着などでこのように大切なボディーが変形する (アンチモン製故に絶対に戻してはイケない)。


で、私個人の場合には左側の元々のスクリューにねじ込むアマル社製のモノを愛用している。今回はこれつけた。


「ドッドッ・・・・・ズッドゥーーーーン!・・・」 元の930の不調が嘘のように連続的な排気音が響く・・・「ズッドゥーーーーン!・・・ズッドゥーーーーン!・・・」アイドリングは安定し吹きあがり方も自然且つ健康的なモノになった。私はスロットルを優しく廻しながら「あいつの分もがんばってくれよ・・・」新しい930にそう言ったんだ。つづく・・・




  

Posted by nunobiki_classics at 16:30作業中車両のプチ報告

2020年01月26日

1958 NORTON DOMINATOR 88 長野県Tさんプチ報告その14


エキゾーストシステムにも1950年代の風情を与える事はフェザーベットフレームには必須だ・・・


先ずは位置決める、単なる2本のパイプと言っても障害物があって熱的な考慮もしながらセットする・・・


外装を仮置きし、全体のバランスをみる。この時、サイレンサーを極力前方に位置させることがセオリーだ。


御覧のようにサイレンサー内には何も無い方が当時の雰囲気を味わえる・・・が、そうもいかない。


以前にも紹介したが、音の悪い消音器部分の加工をする。中の間仕切りとなっているパンチングの板を取り除く・・・以前の加工は→コチラ


プレートを溶接し補強する・・・


消音材としてスチールウールを巻く。沢山巻けば音は豊かに、少なくすれば甲高く下品になる。更に、グラスウールにすれば音はふくよかになる反面飛散が進んで消耗が早い・・・


今回はコーンのキャップは不要、だが消音器の固定にネジの受けが必要なので加工する・・・


キャップの部分を1.5mm程残してカットしたネジ部の受け・・・


フライスの加工跡が見えると時代的にドン引きになるので、ここは手やすりで鋳物感を醸し出したい・・・


手前が加工前、奥が加工後・・・今は僅かな差にみえるが、するとしないでは大きな差となる。


最後に塗装を施し完成、フェザーベットフレームに合わせてコンパクトにまとまりイイ感じに仕上がった。つづく・・・


  

Posted by nunobiki_classics at 12:03作業中車両のプチ報告

2020年01月13日

1958NORTON DOMINATOR 長野県Tさんプチ報告その13


ロッカーアームシャフトはフルフローティング加工され本体も軽量化される、チューンナップの基本だ・・・


バルブトップとロッカーアームのセンターをシム調整し正確に合わせる・・・(これ大事&必須作業)


こうしてみると、プッシュロッドによって押し上げられたロッカーアームがバルブを開閉する様子が良く分かる。


更に、このエンジンはかなり圧縮比を高めていてる。普通にやるとピストンヘッドと燃焼室が接触しそのままでは組めない。


排気ポートから燃焼室をみてみよう・・・下がピストンヘッド、上が燃焼室で右上がインレットのバルブシート。そして中央に有る銅色のラインがヘッドガスケットでその上のがさついたライン状のものが燃焼室のスキッシュエリアだ。今は上死点の数度手前・・・


クランクシャフトを廻していくと・・・スタンダードであればガスケットが丁度隠れる位置位でピストンは止まる・・・


だが、更に廻すとピストンヘッドは燃焼室と干渉する・・・このような仮組を幾度となく繰り返し理想のクリアランスを確保する・・・


そして、ヘッドにバルブを組み込んで、今度はバルブとピストンヘッドのクリアランスだ・・・ピストンヘッドと同じような作業を繰り返しつぶれた粘度の厚みで確認、一見は百文に如かずだ・・・


そして、エンジン本体の完成だ。この後、キャブレターにエキゾーストシステムへと進める。いよいよ完成も間近になってきた・・・松枝





  

Posted by nunobiki_classics at 00:11作業中車両のプチ報告

2020年01月11日

1958NORTON DOMINATOR 長野県Tさんプチ報告その12


シリンダーヘッドの整備は大切だ。如何なる口実を述べようともここを極めなければモノは造れない・・・


「・・・タカヤ、旦那は数日愛犬と狩りに出かけたわ・・・あなたは元気?・・・」まだ、国際郵便やFAXの時代からつき合いをしてもらい、注文の度に優しい言葉をかけてくれた「Mick Hemmings」。残念だけれど近年彼らはリタイヤした・・・無口で英国人らしいミックと奥さんのアンジェラの気さくさは今も私の良き思い出、このヘッドはその彼が手掛けたモノのようだ・・・ ミックヘミングスは→コチラ


そんなミックの仕事だからといっても使い方を間違えてはイケない・・・


・・・エンジンの高性能化を阻害するモノのひとつがバルブガイドだ。出来るだけ短く、ポートに露出した部分をカットするなどすれば吸排気の効率は上がる・・・


更に、材質をブラス製にすれば熱の伝導率は高くなる。また、シート径及びポート径を拡大すれば多量の混合気を吸い込める・・・


だが、レース用の様々を一般道にて使用すると、途端に欠点が露呈する。・・・硬度の低いブラス材はこうして押しに弱く変形摩耗し密着度を早く下げてしまう・・・


長期に渡り使用すれば、このように亀裂が起こる場合もある・・・同じ容積でブラスにすれば強度は下がる。


そして、シートのカットは当然の事鋳鉄製よりも慎重に削る必要がある。


続いてすり合わせを行った・・・


シートとの当たり幅は、インレット側よりもエキゾースト側に幅を与える。狭すぎると漏れが早く訪れ、広過ぎると面圧は低下する・・・


そして、水よりも遥かに分子の小さいガソリンを使い漏れの確認を行う・・・


また、その量を測っておくと良い。いじられたエンジンのコンプレッションを正確に把握する事は基本中の基本だ。


ある程度の時間をおいてポート側から漏れを確認する。少しの量でも漏れがある場合はもう一度作業をやり直す。


四か所すべてに漏れの無い事を確認。シリンダーヘッドの中で最も時間を割く絶対にやり遂げなければならない肝の作業だ。


バルブスプリングとは、固有振動数の違うモノをインナーとアウターとで組み合わせ共振を防ぐようになっている。更に、噛み込みを防ぐ為に巻きが逆になっている。で、この取り外したスプリングとは、驚いた事にアウターの内径よりもインナーの外径が大きい・・・?押してみると接触による抵抗で普通よりも大きな力が必要だ・・・ミックの後の作業者による事は明白だが、指ですっと入らないからと叩きこんでしまうその神経に、ほとほと参ってしまう・・・
  

Posted by nunobiki_classics at 21:35作業中車両のプチ報告

2019年12月26日

1975 NORTON COMMANDO 850 Mk3 Roadster プチ報告その5


販売用のコマンド850MarkⅢの整備、皆さんに見つからない様にこっそりと地味に進めていますよ・・・今回は、車体の完成を目指し、様々なパートを締結するボルト&ナットの最終確認をしています。


で、コマンドはイタリアのドゥカティのパンタ以降のようにエンジンがなければ車体が立たない。なのでクランクシャフト側の作業も同時に進めます。洗浄したケースに取り付けられるスタッドボルトにもいろいろとこだわりが・・・


私の整備では事ある毎にボルトの大切さを謳っていますね・・・このワンセットのボルト&ナット・・・これはノートン系エンジンでのひとつの顔、美景のひとつなんです。専用のモノとなっていてワッシャーに至るまでこれでなければなりません(年式で若干の違いあります)・・・そしてこの美景もエンジンを搭載して完成すると前のアイソラスティックに隠れて全く見えなくなる・・・それでもこだわる、それが通なんです。


これはコマンドの要、エンジンプレート部分です。ここには車体と、スイングアームと、クランクケースと、センタースタンドと、多くの主要部品が集結します。なので見た目では分からないこだわりの整備もある訳です・・・


で、こうしたボルト、ナット&ワッシャーにも強いこだわりがある訳です。その辺で売っているモノ入れた日にぁ「あんた、最低ね・・・」 コマンド好きのお高いお嬢様に嫌われます・・・


フロントのアクスル辺りも御覧のように正統派でビシッと決めます・・・


そして、リア廻りのリアショックアブソーバーも新しく新調しました。下には塗装を終えたMarkⅢ用のスイングアームが控えます・・・で、よく御覧ください、このショックを取り付ける3/8インチ径の上下のボルト達を・・・小さくて分かりにくいですが、ピシッ!っと完成度高く鎮座しております・・・「ボルトにナットって言われても・・・」 そうよなぁ・・・普通の人には分からないよなぁ、こんちくしょう!では・・・松枝  

Posted by nunobiki_classics at 21:29作業中車両のプチ報告

2019年12月25日

1965 TRIUMPH T120R プチ報告その3


幾ばかりか時は流れ早くも今宵はXmasとなりました・・・遅れに遅れておりますがAさんのボンネヴィルの作業、ちらっとプチ報告です。


車体とはメインのフレームにシートレールにサスペンション、更には細々としたパーツが結構あります。そして、半世紀以上も使われている車体ではいろいろと曲がってリ折れたり無くなったりするわけです。写真見て分かりますか?・・・後ろに乗るパッセンジャー用のフットレスト。可哀想なくらいだらーんと曲がり垂れさがっています・・・


これでは足は置けません。で、取り外そうとするもののネジが固着し全く外れません(ここは良くあります)。で、最終手段、こうして過熱します・・・


こうして赤めてやれば緩んでくれる・・・更に大切なオリジナルのボルトを傷つけなくて済む・・・


上下方向のみならず前後方向にもこんなに曲がってしまってます・・・


これもバーナーで赤めて修正して・・・後は溶接で肉盛りして上下方向の角度調整します。


これは車体を上から見たところ、メインのフットレストもあっちゃこっちゃに曲がりまくってますね・・・悲しい。


これも固い鉄で出来ているのでこうして炙ります・・・


赤めてしんなりと修正していく・・・乱暴にやってはいけないのです・・・


トライアンフの隠れた美景であるセンタースタンドの先っちょ。しかし、悲しいかな曲がってだらーんとなっているので直します。


で、カバーを取り付けて位置確認。右のメインフットレストも絶妙なクリアランスに・・・


左側もピッタリですね、元々トライアンフ社ではこうした隙間を狭く造るのが好きなんです。だから、こうしてシャン!と造ってやると当時の雰囲気が出せる訳です・・・(最後に塗装すると良くなりますよ)。


だらりと左後ろを向いていたスタンドの先っちょも車体の進行方向に対してちゃんと直角に修正・・・こうしてAさんが直接触れる大切な場所の修正を終えました。トラ君良かったね・・・


で、「何してんの?・・・」これはフットレストのラバーを取り外そうと、ヒートガンで優しく過熱中・・・


「古いのだったら切って捨てりゃぁいいじゃないの・・・」 違うんです、このラバー見て下さい。この時の生み出す美しさ、こうした歴史を継承する事はとっても大切、絶対再使用したいのでちぎれないように外すんですよ・・・
で、次はエンジン降ろして、タイヤ外して、前後のサスペンション取り外して・・・で、フレームの塗装をするのかしないのか?・・・考えたいと思います。では・・・松枝

  

Posted by nunobiki_classics at 21:10作業中車両のプチ報告

2019年12月21日

1958NORTON DOMINATOR 長野県Tさんプチ報告その11


その8で話したように、この88にはクワイフ社製の5スピードギアボックスがおごられている。 


各ギア間の減速比の差が小さくなり、今まで苦労していた登坂路もすいすいと登れる魔法の箱だ・・・只、もろ手を挙げて喜んではイケない。ギアが一段増えただけに留まらず、その操作は頻繁になり動きも激しさを増す・・・


これを皆さんが操作しているシフトチェンジシステムの側から考えてみよう・・・左側の丸いモノがその直接のシャフトだ。モノは「てこの原理」を応用し本来大きな力が必要な場合でも適切な力で操作できるように設計される。人間に優しいモノ作りだ・・・


ところが、される側から言えば、力が局部的に強くかかり摩耗は進む事になる。更に操作の速度が増す度にその負荷はどんどん大きくなっていく、機械にとっては辛いったらありゃしない劣勢な状態を強いられる訳だ。


そうした事もあって、こうした接続部分にはクサビやスプライン加工などのズレ防止の細工が必ずある・・・(写真はトライアンフの例)更に、レバー比を変更しストロークを換えるなどするリアセットの場合はその傾向は顕著になり各軸受けにそれ以上の負荷がかかる・・・


取り外したレバーを良く見て欲しい・・・何となくおかしくないかい?・・・


分かるわね、この意味が?・・・私の目が点になった事は言わなくても分かるだろう・・・


新たなレバーを用意し組み付ける。これが正常な状態で双方がスプライン加工によってガッチリと固定されているのが分かる・・・なんと言うのか、なんの取っ掛かりもないのにボルトとナットで締め付けようとする発想の根拠が私には分からない・・・こんな程度の意識しかないこの整備に私はもうがっかりだ・・・


一般人が始動する時、必ずスターターレバーが必要だ・・・ところがこれってなんだ?これでエンジンかけろと言うのか?・・・


これは88用のレバーを途中でカットしヤマハのSR用ホールディング部分を途中から溶接してつけたようだ。で、危険なのはその角度と更には軸の固定に使うボルトだ。


下にあるモノが着けてあったボルト&ナット、上にあるモノが正規のボルト、ここには非常に強い力が加わるので専用のモノとなり、粘りや強度と言った材質そのものが違う、こここそが問題だ。


ヤマハのレバーにアセチレンで熱を加え曲げる。同じようにノートンの切り取られたベース部分にも大きく曲げ加工する・・・


あらネジに換えられていた理由はメネジをつぶした事。それによって両側からボルト&ナットで締めたという話だが、そんな事で私が納得すると思うのか?意地でも本来のボルトを使えるようにヘリサート加工してやる・・・


ノートン系のマニアにとって密かな美景が幾つかあって、このスターターレバーのボルトとワッシャーもそのひとつ (ラウンドしたボルトのヘッド及びワッシャーが大切)。 「・・・やっぱり、これだよな・・・」と、うなずいたなら貴方もノートン系の通だ・・・


これが修正前・・・


そして、これが修正後だ・・・「なんだよ、今日はキックペダルかよ・・・大げさだなぁ・・・」 君達の顔にはそう書いてある・・・しかし、ブリティシュのエンジン始動とはひとつの儀式だ。現行車にはない事前の操作を行い、自分の足でエンジンをかける。


それは誰しも神聖で厳かな精神状態で臨む。知らない者にはかける事すら出来ないブリティシュの始動。そんな時に先っちょのひん曲がったレバーで踏むなんて私はお馬鹿さんだと言っているようなものだ・・・


そもそも、モーターサイクルに於いての直角度や平行度は大切だ。ステアリング軸にエンジンマウント軸にスイングアーム軸に前後のホイールのアクスル軸・・・


クランクシャフトにギアボックスのメインシャフトにレイシャフト・・・こうしたモノが全て進行方向に対して直角を維持し全てが平行になっていなければならない。それは静的であっても動的であっても・・・


しかし、車体のみならずエンジンの剛性までもが低いブリティシュの場合、その動的な平行度なんて語れたものじゃない。それでも理想に向かって整備する事は必要で、作業者のやる気次第でその精度はバラバラだ。そんな中でも、小さな存在のスターターレバーとて必ず並行でなければならないんだ。(写真は超低剛性な1960-1962のトライアンフプリユニットモデルのフレーム(笑))


それは何も大きな部分の話だけではなく、ある意味皆さんが直接触れる操作系の各所に於ける方が重要だと言っても過言じゃない。「これっ、何となく走り難いなぁ・・・何となく疲れるよなぁ・・・」


フットレストにハンドルレバーにバックミラーに至るまで・・・どれもこれも皆さんにとっては大切で、人間の感覚に逆らうようだと実に不快に感じる。車やトラックといったもののように機能を果たすだけではないモーターサイクルは「心地良さ&幸せ感」を得られなきゃ突然悪評となってしまう・・・


こうしたモノだって大切だよ・・・地味なマスタースイッチでも確実に操作できる事は当たり前であるものの、その位置でさえクラシックモーターサイクルとしての安全性と更には豊かさをも含む。


現行車のようにメーターの間にある方が便利で安全ハンドルロック迄兼ねている。しかしこの世界では、そうでない方が「らしさ」があって幸せになれる、そんな洒落っ気も十分にあったりするんだ・・・(写真はトライアンフ)


「うわー!急にトンネルだーっ・・・」 ライトスイッチひとつとて皆さんや他者の命を脅かす可能性もある。どんな時にでもすぐに、確実に、安全に操作できなきゃイケない。元々古典的で人間工学の及んでいないブリティシュでは極力自分の能力で賄えるスタイルに変更する事も愚策ではない・・・


エンジンやキャブレターなど難しい事をとかくやりたがる皆さん、やるべき事はこうした事が先じゃないか?・・・次に走りに行く前に愛車についているハンドルレバーにバックミラー、フットレストにシフトレバーにブレーキペダル・・・今一度自分の感性に合っているか確認してみよう・・・


突発的な状況に遭遇しても「よっしゃー!」っと、冷静に操作できるモノなのか?今一度、スパナを持って愛車を整備してみようじゃないか・・・それはそもそもクラシックモーターサイクリストの義務でもあり君達の人生をより豊かにする為に有効な事なんだと私は思うんだ・・・

そして、私はこのプチ報告その1で「怒り心頭だ!」っと言った・・・次回はその核心部分の整備に進む。モーターサイクルとは危険な乗り物だと教えてやる・・・松枝

参考に・・・大切なギア変速の話を書いてます。「布引流英国車講座上級者編」 是非ご覧ください→その1その2その3その4  

Posted by nunobiki_classics at 12:50作業中車両のプチ報告

2019年12月16日

1958NORTON DOMINATOR 長野県Tさんプチ報告その10


88のボアストロークは66x72.6mmで排気量は497ccだ。だが、この88には650SS用のシリンダーが取り付けられボアが68mmの527ccとなっている・・・


エンジンの性能を上げる場合、最も有効な手段が排気量を上げる事だ。で、それはどちらかと言うとトルクの増大に向く。よってトルクの小さな88には有効だ。


スチール製のHビームなコネクティングロッドは美しい。しかし、一般道を走るTさんにはそっちの方向を極めてはいけない・・・


イグニッションシステムも既に無接点式のボイヤー社のモノに交換されている。これは有効な回転域を上げようとするこのエンジンには当然の選択だ。メカニカルな標準のマグネトー点火装置では回転数が上がるにつれ予定通りの仕事は出来なくなる。レースの世界で使わなければ勝てないと言っても過言じゃない・・・そして、一般道でもその恩恵を受ける事が出来る。古いクルマのトラブルの約半数以上はイグニッション系統もの。調整もメンテナンスも何も要らない。いつ始動しようとしてもトラブルは起こらない・・・それはTさんにとってとっても大切な事なんだ・・・無論ルーカス社製のマグネトーはカッコ良いし素敵だ。私個人のモノならマグネトーで走るさ・・・けれど誰もが忙しい社会人・・・さっと乗って次の日は又仕事なんだろ?・・・どちらが良いとは言っていない。自分の技量に合わせて選べばいい・・・それだけの話なんだ。


これは分解前のプライマリー減速装置の状態でレース用として幅40mmのベルトを使っている。只、500㏄クラスに40mmは結構な容量で、ましてや一般道では逆効果だ。そして、その取り付け方が非常にまずい。重いローターがとんでもなく遠い位置にありクランクシャフト上に殆ど乗っていない。それは発電機の装着を想定していない40mm幅に無理矢理取り付けた格好だからだ。細く長ーいスタッドボルトが弱々しくステーターコイルを支えていて怖くて見てられない・・・


そんな遠い場所の発電装置をぐっと寄せてしっかりとクランクシャフト上に移動しよう!・・・で、グレー色のモノが取り寄せた30mm幅のプーリー、左上のブラケットハウジングにはしっかりとした短く中央部に太さのある1/4インチ径のスタッドボルトを、右下には幾種類かのカラーが並ぶ、こられは布引自家製だ・・・


取り付ける場所の感じはこんなだ・・・


すると、ハウジングがベルトの振れに近すぎてダメだ。フライス盤で慎重に必要な分のみ削り取る・・・


そして、寄せて寄せて詰めて計測して結果この位置になる・・・


ノックピンの位置もあるからどこでも可能な訳じゃないが、これ位詰めれば大丈夫だ・・・


ハウジングも取り付けて完成した図。どうだよ、元の時よりも35mmも中に入れたんだぞっ・・・


こうして危険な位置にあった発電機一式が普通の場所?に納まった。高速で回転する軸上ではモノは遠くなる程暴れる傾向になる。こうしてぐっと締まった筋肉のようにコンパクトになる事は末端が長いクランクシャフトを持つブリティシュには大切なんだな・・・松枝
  

Posted by nunobiki_classics at 21:19作業中車両のプチ報告

2019年12月16日

1959 TRIUMPH T110 東京都W様 修理作業 プチ報告その9

電装系

東京都杉並区Wさんのワンテン、キャブレターの分解整備してます。元々この時代はアマル社製389や376などモノブロックが標準。


これは整備中の他車のモノで389。1960年代中盤辺りまでのブリティシュを支えた陰の功労者だ。


しかし、うちに来る前から後のモデルである900/600シリーズ、通称コンセントリックタイプに換えられていて、これが何とも残念だ・・・分解前の状態をみると余りメンテナンスを受けていいない事が明白に分かる、悲しい・・・


見て分からないのが辛いところだけど、電装系統の作業もやってますよ。メインハーネスに充電系統にバッテリーにテール廻り・・・


リアのブレーキなんかも取り付けてスイッチつけてほぼ完成!・・・残すところは、メーターにヘッドライトにハンドル廻り&各ケーブルですね。頑張ります!・・・松枝  

Posted by nunobiki_classics at 20:03作業中車両のプチ報告

2019年12月04日

1959 TRIUMPH T110 東京都W様 修理作業 プチ報告その8


東京都杉並区のWさんのワンテン、塗装終えた後の作業のその続き・・・墨入れしたバッジにパーセルグリッドなんかを取付しています・・・


マッドガード、傷がつかないように慎重に取付します。追突されてぶっ潰れていたテール廻りも復元しましたよ・・・ライセンスプレートにルーカス社製テールランプL564も新しくなりました。


フロント廻りもほぼ完成です。やっとトライアンフらしくなってきましたね。・・・この後、電装系統の作業へと進みます!(汗)・・・松枝  

Posted by nunobiki_classics at 22:26作業中車両のプチ報告

2019年12月04日

1958NORTON DOMINATOR 長野県Tさんプチ報告その9


予想はしていたが、エンジンにも自己流の整備が多々あって私を悩ませてくれる・・・


一般の自動車整備にレーサーの整備・・・どちらにもそれぞれのセオリーがあり私と同じ整備士が汗水を流して懸命に努力している。特に走行速度域が極端に上がるレーサーの整備では厳しいまでの質の高さが求められる。


レーサーの世界ではメネジを予めヘリサート加工する事は一般的だ。特殊なステンレス鋼製のネジ山はアルミ製の母材とはケタ違いの耐久性を持ち幾度の脱着にも耐える。その加工途中の思考とは、「どうすれば最も有効な状態に仕上げられるか…」なんだ・・・これは私が加工したモノ。穴の奥行きに可能な限り有効なネジ面を作る事が基本。入れるボルトの様々な状況に耐えられるように気を配る。


このネジ面の位置が見えるかい?・・・このエンジンの場合、全ての場所でその位置は違う。手前に数巻あるモノ、中央に数巻あるモノ、奥の奥に数巻あるモノ、何れの場合にも3巻程度である事が特徴だ。ステンレス製のコイルの数巻分の軽量化を狙うなどと私には到底思えない・・・更にこのエンジンは、ほぼ全てのネジ山にヘリサート加工を施しているから厄介だ・・・


私も流石にこれには参った・・・これを直すとなると一旦削り取りアルゴン溶接で肉盛りし改めてヘリサート加工をやり直す事になる。そんな事をほぼ全ての箇所に出来ると思うかい?・・・残念だがこれらには最低限度の修復を施し使えるモノは使う方針とした。


取り付けられるボルトの端面もこのあり様、もうこれは作業者の性格の問題だ。皆さんが自分の愛車にこんな汚い仕事をされたらと想像してみてくれ・・・


これはブリーザーの取り出し口だが、インチネジの上からミリネジを切っているがとても褒められたモノじゃない・・・



この真相はこうだ・・・ブリーザーのメネジにミリネジでタップを切る→プラグを作ろう→ブラスの丸棒からネジを切ったが六角の加工は出来ない→モノが丸い為につかめない・・・ボルトを真ん中に入れて締められるようにしよう・・・


只、先にボルトが緩んだ場合にはどうするんだい?・・・せめて中央に穴くらい開けなきゃイカンだろ・・・ここは、カムシャフトの端面から取り出すブリーザーの容量不足の改善の為にいじる場合が多いが、今回の原因かは分からない。


で、新しいオーナーのTさんは一般人だから、必要のない過度の整備を控え費用を抑えなきゃイケないとコンセプトを再認識。で、自作されたプラグに二面分のカットをする・・・


こうすれば、スパナで脱着が可能になるし六面加工するよりも安く済む。ネジはミリネジだから二面幅も敢えて14mmとしてやった。


クランクケースとは、元々左右違う金型から鋳造されたものなので、必ず位置を決めてから各部の穴開けがされる。その為にノックピン等が使われる。しかし、このエンジンには2個あるうちの1個がない・・・で、このケースには幾場所かに溶接の修復跡がある。ここもその時の不完全な作業によってピンを取り外したようだ。だがそれではケースの定位置からずれてしまう・・・


普通のカラーなどとは違い、この場合には100分の1ミリ単位の精度でピンを慎重に削る・・・


中央の小さなモノが作り直したピンだ・・・これで左右のケースが他の要因に邪魔される事なくセンター性を維持できるようになる・・・


排気量に伴いメインベアリングへの負荷が増大しボールベアリングでは破損が多発するようになる。1970年代に進むにつれ各社それぞれにローラーベアリングへと移行する・・・


取り外すとケースとの嵌め合いが過去の脱着で傷んでいる事が分かる。これ冷間で取り外す時に出来る傷だ。エンジンをバラそうとしている皆さん、お願いだからここを冷間で外そうとする事はやめてくれ。ここを傷める事だけは絶対にしてはイケないんだ・・・


ノートンツインエンジンには、やはりこのローラーベアリングが適する。耐久性もずば抜けて高く何処まで走っても絶対的な安心感がみなぎる・・・


現行の市販車のエンジンをレース用にする場合、必ずバリや形状の不具合を修正する事は当然だ。だがクラシックカーの世界では禁断の領域だと知って欲しい。どんなにバリが出ていても、どんなに鋳型の形状不良があっても、絶対に削ってはイケない。製造当時の鋳型に敬意をもって「へぇーこのエンジンの鋳型おもしろいねぇ~・・・」なんて会話が将来に渡って続く事がこの世界の醍醐味、一気に価値が下がってしまう・・・
で、このタイミングサイドの内面を削った跡がある。リフト量の多いカムシャフトを入れた場合に接触するところでもあるが、ここをこのような形状に削る事は誠にもって無知の証だ。やってはイケない事の典型だと言っておく・・・


基本的な話に戻すが、これはクランクケースのボトムに位置するエンジンオイル用のストレーナーで異物をオイルポンプを始めラインに流さないためのモノ。この時代のエンジンには現行車のような高分子フィルターは無いから、この金網でこしとるだけでしかない。レースをしようとするエンジンがこんな汚れとは一体どういう事なんだ?・・・これでサーキットコースを走ろうと言うのか?・・・


今回のボトムの作業は大切だからと常に念入りに行うものの、コストとの兼ね合いも大切だ。一般道を走る人に過度の整備は必要のない事。


さりとて無謀な状態をそのまま渡す訳にもいかない・・・使えるところは極力そのまま再使用しどうしてもダメな部分に注力する・・・やるべき作業が出来ずに余計な事ばかりに費用がかさんで行く・・・


「この車両はレースで入賞したから凄く良いものなんですよ・・・」 皆さんもこうした誘い文句の裏側が見えたと思う。残念な事に、このボトムで私が称えたいモノはスチール製のコネクティングロッドだけになってしまったんだ・・・松枝
  

Posted by nunobiki_classics at 01:04作業中車両のプチ報告

2019年12月01日

1959 TRIUMPH T110 東京都W様 修理作業 プチ報告その7


東京都杉並区Wさんの1959年のT110、新しいバッヂに墨入れしましたよ・・・やはり品格あっていいですね・・・


ぺトロールタンクの塗装も終えました・・・今は小さいタンクが流行ったりしてますがね、このボリューム感こそトライアンフの絵です・・・


前後のマッドガード&ぺトロールタンクも塗装完了&乾燥も終えましたよ。後は水研ぎ&磨き作業致します。その後、バッジ等のクロームパーツを取り付けて車体に取り付ける予定です。T110の塗装作業の進捗状況こっそりとプチ報告です・・・松枝  

Posted by nunobiki_classics at 21:19作業中車両のプチ報告

2019年11月29日

1958NORTON DOMINATOR 長野県Tさんプチ報告その8


長野のTさんの88、エンジンバラしましたよ…


車体は酷いモノだったのでエンジンは良い状態である事を願いつつ分解すると…仕事の内容は二分してますね。恐らく外注した仕事は立派に出来ている。しかし、組み方は最低・・・こんな感じ。只、レース用のセオリーとしては間違ってない。クランクはフライホイールの軽量化とバランス取り…


コネクティングロッドはアメリカ製のなんちゃらって言うメーカーのスチールの鍛造品でH型…これは私も使ってますがこれ大正解…


ギアボックスも良いですよ、これはAMC用の5スピードギアで、英国のクアイフ社製。このクアイフ社というのはですね、私が昔四輪のレースやってる時、「クロスレシオのギア入れて予選突破するぞーッ!…でもお金が無い…ちきしょーう、でもあのギア欲しいーっ!…(泣)」とか言ってた記憶あり、そんな貧乏プライベーターには買いたくても買えない憧れのパーツをバンバン作る聖地英国にある世界のトップクオリティーレーシングパーツメーカーなんです!・・・(熱弁)


で、我がAMC社製ギアボックス用に5&6スピードが用意され、シフトもセレクタープレートと最近できたコーンリバースが選択できる。基本、1速がストリート、ストリート&レース、レースの三種類のギアが用意されます。剛性を上げたケースもアロイ製とマグネシウム製がありますね。で、この88にはアロイ製のケースと中身がストリートの1速が入る5スピードでシフトはセレクタープレートですね。これはトルクの小さな88を一般道で走らせるにはぴったりの選択と言えますよ。皆さんも是非クアイフ社覗いてみてください、造ってるモノの凄さが分かったら貴方も一人前です→コチラ


丁寧に洗浄してみました「かっちょいいですね!」・・・良いパーツは実に美しいものです…と、今回はなんだか終始穏やかな感じでしたが次回はどうなります事やら・・・次回はエンジン組んでいきますよ、では・・・松枝





  

Posted by nunobiki_classics at 20:37作業中車両のプチ報告

2019年11月14日

1964TRIUMPHT120R BONNEVILLE 沖縄県Kさん 車両直輸入プチ報告その2


2019年7月に注文を受け、その9月にアメリカから届いたボンネヴィルを神戸税関で手続き終えて工場に搬入・・・
※布引車両直輸入のくわしい状況は→コチラ


開梱してみると、「布引お手軽倶楽部最上クラス」のベース車両」としては抜群の状態・・・
※お手軽倶楽部は→コチラ、ブルジョア倶楽部は→コチラ


ぺトロールタンク(塗装が1963年になっている)、前後のマッドガード(ステンレス製になっている)、各ボルト類がクロームメッキされている(アメリカらしい)、を除けば超上出来「いいじゃない!・・・」


左回転のタコメーターもちゃんとあるしエキゾースト関係もオリジナルで前後のリムもダンロップ製が残っているしその他欠品もなくベース車両としてはベストチョイス!さすが布引クラシックさんですねぇ・・・(手前みそ)。


そして、オーナーのKさん、沖縄県は石垣島から飛行機とレンタカー乗り継ぎ遥々と再び来店してくれましたよ!(石垣島から2回も来てくれてます。) 


「…いいですね!」と開口一番、初めてのマイボンネヴィル、ふたりで梱包の枠を外して車両を取り出しイギリス生まれでアメリカ育ちのボンネヴィルに初めて日本の地を踏んでもらいました・・・「お疲れさま!」


1963~1965年のいわゆるクロスバッヂモデルは現存数も少なく市場に出回るモノは非常に程度が悪い。とんでもなく費用の掛かるような劣悪車両がはびこる中、こうした上物のベース車両を確保できたことは実は素晴らしい事なんだ・・・


そして前回の「広島もみじ饅頭」&「チーズケーキ」に続いて今回は「北海道のロイズさんのチョコ石垣島バージョン」 頂きました!・・・嬉しいですね。そう、松枝も生身の人間こうした心遣いが車両の仕上がりに大きく響く・・・やる気が全く違ってくる・・・キラッと輝くボンネヴィルになるのか?そこらへんに転がっている適当なボンネヴィルになるのか?ここが運命の分かれ道・・・これこそが布引流顧客対応法なのです・・・(半分嘘です!笑) そしてKさん、安心&喜んで帰って行かれました。とりあえず分解整備の着手迄、待っててくださいね。では・・・ 2019.11.13 布引クラシック松枝

  

Posted by nunobiki_classics at 12:17作業中車両のプチ報告

2019年11月10日

1959 TRIUMPH T110 東京都W様 修理作業 プチ報告その6


東京都Wさんのワンテンの塗装作業、ツートーンのカラーと上塗り作業完了しました・・・


塗装を剥離し、亀裂や異常を確認し、数か所の溶接修理の後、下地を整え、パテを入れる。パテは中目を一度塗り乾燥させ研磨する。更に細目を塗り乾燥させ研磨する、更にグレージングパテを塗り乾燥させ研磨する・・・何工程もの作業があってそう簡単にはいかない。更に1959年製となればヘコミ以外に腐食もあるしノーパテと言う訳にはいかない・・・


前後のマッドガードも同じ、パテを含めると120番から始め最終的に600番まで研ぎをかけて行く・・・塗装とは一にも二にも下地作業の連続。暗く地味な仕事をずーっとやらなきゃならない。下地にある不具合は塗りが完了した時点で必ず表に浮き出で来るから絶対に手抜きは出来ない、それが塗装ってものなんだ・・・


次は下塗り作業だ。最近主流になっている2液性のプラサフを試してみたが・・・これは厚みをつけられて乾燥後の研磨の幅もあるし錆を押さえ込む力も強い。更に密着性も高く素晴らしく高性能だ。今ではどこの塗装屋でも使っているとの事・・・


只、仕上がりにゴージャス感は出るもののシャープさに欠けクラシックカー的には使い難い。性能よりも質感を重視したいと思うから私はやはり1液性だ。


ぺトロールタンクについているモノはメネジのネジ山に塗料が乗らない為に入れている仮のスクリュー、詰め物をするよりも遥かに効率が良い。


白を塗った。色はいわゆる「アラスカンホワイト」歴代のトライアンフが使用する馴染みの色だ。そして、ツートーンの境にマスキングをする。この1959年のT110とT120は色が違うだけで塗り分けは同じ。只、US仕様とUK仕様では幾分の違いがある。これはUKなので後端の湾曲部分がUSよりも穏やかになる。


そしてブラックを塗る。この順序は白よりも先に黒を塗る方が手間はかからない。が、モノのセオリーとしてはこうなる。


異物が付着しないように最善の努力はするが、やはり数点の「ホコリ」はあるし「ブッ」も発生する。乾燥させた後に1500~3000番程度のペーパーで取り除き最後はバフ掛けをする。上塗りの前に中塗りの表面を整える事は大切な工程だが、やり過ぎるとクラシックカー感は下がる・・・


そして、上塗りをした。このクリアー色にも1液性と2液性があって、その最大の違いは塗膜の厚みだ。1液性は薄くクラシックカーに最適な質感を得られる、反面2液性は後の磨き作業に耐えるだけの十二分な厚みが確保できる・・・


個人的には1液性を好む。もっともガソリンや紫外線やなにやらで現代人の価値観も変わってしまった。古いクルマやバイクが好きだと言ってるクセに塗装が薄くなるのは許せないと言う・・・そうした時、私は2液性のウレタン系塗料を可能な限り薄めに塗り、後のパフ掛けも最低限度に抑える。そうすれば耐候性を保ちつつクラシックカー的な質感を確保できる・・・


2液性のウレタン系塗料は常乾塗料ではないから加熱が必要、充分に塗膜が硬化した後、ゴールドでラインをひけば外装の塗装作業は全て完成だ。松枝
  

Posted by nunobiki_classics at 21:18作業中車両のプチ報告

2019年10月14日

1975 NORTON COMMANDO 850 Mk3 Roadster プチ報告その4


コマンドのステアリングには2タイプあって左側が1971年以降のレイターモデル用、右側が1970年までのアーリーモデル用だ。アーリーモデル用は前モデルのドミ系そのままでステム径が細く強度的余裕はない。 


それを1971年モデルからコマンド専用のモノに置き換え、以後コマンドのステアリングに対する不評はなくなる。1980年代を念頭に入れたモーターサイクル開発の素性として重量が重い点を除けば素晴らしい出来栄えと言える。


モーターサイクルの要であるステアリングのベアリングとは、ボール&レース式が使われ1980年代頃からスポーツモデルにはテーパーローラーベアリングが採用され始める。しかし、コマンドにこうしたモノを使うと操縦感覚を損ねる。シールがついているので分かりづらいがコマンドのステアリングに使われているモノは単なるボールベアリング、ここがコマンドの「ツボ」。仮にあなたがコマンド通だと自負するなら「コマンドはボールベアリングじゃなきゃいけないよ・・・」っと、既に理解しているはずだ。



前回完成していたフロントフォーク。マッドガード用のスタッドボルトが折れ込んでいる・・・


通常、それ程難しいモノじゃないが今回は言う事を聞かない。で、溶接し肉盛りすると熱によってもネジが緩み簡単に外れる事が多い。しかし、何をしてもこいつは外れない・・・


そうした場合は頭をサッと切り替える。ケースを単体にしてきちっと取り外す事にする・・・この転換が大切だ。先ずは、垂直を出す。モノが楕円形なので正確にアングルを出す・・・


折れ込んだ端面は歪だからドリルのキリが当たりづらいので、先ずはフライスで面を出す・・・穴径をフライスのゲージに当て込んで正確にセンターを出さなければ後で厄介になるから正確に測る。


で、折れ込んだボルトは1/4インチだから、その分をキレイに取り除く太さのドリルでもんでいく・・・


で、ネジ山の再生にはヘリサート加工するので、それ用に太さの穴を再度開ける・・・


更にヘリサート用のタップでネジを切る・・・


最後にヘリサートの玉を挿入する・・・これで、意地でも外れないと折れ込んでいたスタッドボルトが正常に使えるようになった・・・最も、皆さんはこんなちっぽけなスタッドボルト1本など興味を示さないだろうし、ここにこうした手間暇が掛けられているなんぞ知る由もない。それでもやはり正確に直さなきゃならない・・・「はぁ~」後に残るむなしい倦怠感・・・これがわびしい自動車整備士の悲しい性なんだ・・・


これで、MarkⅢのステアリングにロードホルダーが完成した。コマンドは皆さん知っての通り前モデルのドミ系よりも格段に走行性能は上がっている。それ故にこうしたステアリングにフォークが重要になる。走りの良さや旋回性能を問う場合、特にフロントの制動性能を上げたモノなどでは、どうしてもレイターモデル用のステアリングが必須になる。しかし、ドミ系そのままの細い細ーいステアリングステムそのままのアーリーモデルでは、頼りない走りに挙動が乱れても、そこに時代の味や古いモノを扱う醍醐味が含まれる。個人的にはアーリーモデルの味が好きだけど、少なくとも850MarkⅢではレイターモデル用でなければ走れない。つづく・・・



  

Posted by nunobiki_classics at 21:40作業中車両のプチ報告