2019年01月02日

1961 BSA A10 RoyalTurist 納車整備報告 オーナー大阪市H様

1961 BSA A10 RoyalTurist 納車整備報告 オーナー大阪市H様
先ずBSA A10を簡潔に説明しよう・・・1947年にA7(500ccツインモデル)がデビュー、続く1950年にA10(650ccツインモデル)がゴールデンフラッシュ系としてスタート、1953年スポーツモデルであるスーパーフラッシュ系が新たに加わる2ラインナップ。前者は北米で安定したセールスを維持し、後者はロードロケット、スピットファイアにロケットゴールドスター等へと派生し共に1963年に生産が終わる。そして、今回のA10RTは1960年に名称が付加された北米専用モデル「ゴールドフラッシュロイヤルツーリスト」だ。

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アメリカから良いモノがあると連絡を受け早速輸入した。神戸税関で通関手続きを終え工場で開梱する。各部を点検しエンジンをかけ試しに走ってみる 「うん・・・いいんじゃないか・・・」 で、今回はオーナーと相談の上、機関以外の作業を行い新規検査を受け納める事とした。

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英国車の整備とは、先ず油まみれの車体を徹底的に清掃する事から始まる。次に出来るだけ奥の奥から仕事を始める事。現行車と違い容易に交換する事が出来ないこうしたプライマリーチェーンケースの裏側には必ず完全な整備を施してやる。

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プライマリーチェーンは単列式で1950年代を踏襲している。ここでの注意点は走行中にラフなスロットル操作を繰り返す事。加速する時には一旦プライマリーチェーンの弛みをとり、それから本格的にスロットルを開けていく癖を身に着けて欲しい。

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クランクシャフトエンドにはエンジンとギアボックス間との衝撃を和らげるスプリング式の緩衝装置が見える(前の写真にスプリング見えます)。波状の合わせ面がバネの力に打ち勝つと回転し双方が離れバネを縮ませる方向に移動しようとし衝撃を緩衝する。これも1950年代で終わりを告げ軽量小型のラバー式に変わる。

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これはオイルが空の状態で走り続けたクラッチスプロケット・・・そもそも皆さんはプライマリーチェーンオイルの交換をどのように実践しているんだろうか?…思うにかなり適当だ。ここのオイル量はどれもコップ一杯程度。更にドライブチェーンへの給油やシール材にフェルトを使うなど基本的に減少して行く。よってここのオイル交換とは常にオイルの量を一定に保つ為の行為。エンジンオイルと同時に交換する事は英国車乗りの常識だ。

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エンジンを走らせる前にバルブクリアランスの調整は必須。英国車のバルブ廻りは弱いからせめて自分の手で触りアジャストしその感触を憶えることが大切。後の不具合や状況の判断に必ず役に立つ。

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中央に見えルーカス社製のK2系マグネトーは戦火に於ける命綱でもあった。点火装置は独立し他の回路に影響は受けない。信頼性も高く始動性も良い。但し機械式のブレーカーを使うので定期的なメンテナンスは必要だ。

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向かって左がマグネトーの裏側にある丸い進角装置。これは年式やモデルによって固定式と自動式がありこのロイヤルツーリストはオートアドバンスが使われる。そしてクランク軸の下にオイルポンプがあり、右上は発電用の3ELルーカス社製ダイナモへと続く駆動用のチェーンでここにエンジンオイルは使わない。何れも頭脳的な設計に好感が持てる。

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これはクラッチのアジャストボルトとプッシュロッドを引っ張り出してところだ。クラッチレバーを握ればこのアジャストボルトがロッドを押し反対側にあるクラッチスプリングを押しクラッチディスクは離れる。ここは回転数の違うモノ同志が接触するからこうしてボールを入れて摩耗を極力減らす工夫となっている。但し、耐久性が低く作動していない場合が実に多い。強い荷重を掛けたうえでの作動の観察が必要だ。

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キャブレターはアマル社製389/48。二桁の枝番はモデル固有のナンバーで製造時に装着されていたか否かの判断材料となる。48はこの年式のA10のもので正規のオリジナル品だ。それが今でも現役で使える状態だから是が非でも調子を出してやる。

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これは当時のフロートバルブでプラスチック製だ。だが、これが曲者。ガソリンを止める能力が著しく低い。よって如何なる場合にも再使用は不可だ。

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写真の右上がプラスチック製とブラス製のフロートバルブで、基本的にシート側とセットの交換が望ましい。で、左下が新旧のフロート。右側のブラス製からプラスチック製へと変わる。但し、ここはセオリーに反し新しいから良いと言えはしない、一度それぞれを浮かせてみればその意外性に驚くはずだ。

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ぺトロールラインは英国車に於ける風情。質の高いモノを作る時の大切なアクセサリーでもある。

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この時、モデルや時代的背景を考慮する事が必要。A10の場合はこの景色が正に正しくなる。仮にクリアー色のホースを使いご満悦になっていたとする、これが全くのナンセンス。時代的に有り得ない素材を使い鼻高々になっているなんぞ作り手としての恥さらしだ。

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1950年代の英国車の魅力は隠れた場所にも多い。当時のドライブチェーンの信頼性は低くモーターサイクルのアキレス腱と言える代物…

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そこには英国の雨や霧から守る為の見事な工作が残る。これほど密着したスチール製の部品を量産車に使う事など現代ではあり得ない・・・けれど悲しいかな整備性が悪いと簡単に捨てられてしまう…

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だが私は意地でもこのカバー達を残してやる。皆さんも自分のA10にこのタイプのカバーが着いているなら、是非今一度見返してみるべきだ。

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エンジンを分解しない場合にも電装系統に完全な作業を施すことが必須だ。この他必要なな作業を経て車両は完成した・・・

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海外の車両を日本国内で走らせる場合には並行輸入申請を行い書類審査を受け、更に新規検査に新規登録を受ける必要がある。単に車体を輸入したからといっても登録すら出来ない場合があるって事を皆さんには言っておく。そして神戸の陸運局で予備検査を受けた後、なにわの検査場で新規登録を済ませ、晴れて日本の公道上を走れる合法的な車両となった。

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いよいよ私の楽しみにしていた試運転だ。「ズッズッ・・・ズッドロローン・・・ズルッルルルルルル・・・」 エンジンを適切に暖める。そしてシフトペダルをかき上げローギアに入れた。「ココンッ・・・ズッズッズッズッズッズッ・・・」

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「カコンッ・・・ズッズッズッズッズッズッ・・・」シフトペダルを踏み込みセカンドギアに入れ更にサードギアへと踏み込む「クンッ・・・ズバッズバッズバッズバッ・・・」 更に一段踏み込みトップギアへと入れた・・・「コンッ・・・ズッズッズッズッズッズッズッ・・・」 車速は50マイル・・・なんとも爽やかな風に包まれる・・・

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走り続けるとコーナーが近づいてくる 「・・・ズッズッズッズッズッズッズッ・・・」 スロットルを戻し、リアブレーキを上手に当て減速し備える・・・車体を傾けると 「・・・ズッドゥーーン・・・シャーーーーーーーッン・・・」 完璧な美しいラインを描いてA10は旋回する・・・

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ところがA10自ら「もっとスロットルを開けてみなよ・・・」と言ってくる。ならばシートの着座位置を変えステップを踏みかえ幾分気合を入れて走ってみる・・・コーナーに入るとっ! 「・・・ズッドゥーーン・・・シャーーーーーーーッン・・・ズッズッズッズッ・・・ズッズッズバッバッバッバッバッバッ!・・・」 楽しい、めちゃ楽しい、「だから言ったろ、僕は走れるって・・・」 と、A10が私に言った。今年の私は忙しく個人的な旅に一度も出掛けないままだから、少し走らせたもらった・・・試運転の終わりにこのA10の良さをもっともっと引き出してみたいと思う程に未だ々走り続けていたかったんだ…

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このような高い性能を秘めたA10を北米市場が放っておくはずはなく、常に安定したセールスを記録したと伝えた。皆さんは意識せずともモーターサイクル発祥の欧米での要求は我々日本人よりも遥かに高くそこでの評価は裏付け無くして得られない。

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確かに古典的なデザインは確かな走りに直結しないかもしれない。だが、一度走りだせばどのような条件にも応えて見せる。ゆっくりと走る事も、ズバーンッと走る事も、その両方にとても質の高い走りを見せる。エンジンの高い剛性が少ない出力を効率よく伝えスロットル操作を正しく反映させそれが楽しさに直結する。同じく高い車体の剛性が正しいサスペンションの動きを可能にし路面を追従させそれが抜群の安心感を生む。更にその両者が相まって本来必要な操縦性能とはこうなんだと言わんばかりの走りを見せてくれる・・・

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そして忘れてはならない事は、1950年代の英国車らしさに溢れ魅力もだ。ルーカス社製のマグネトーや6ボルトのダイナモ。プリユニット式のエンジンに前後19インチのサラブレットな足回り・・・そしてクロノメトリックのスピードメーター…このような後の時代にことごとく排除されてしまった過去の遺物の集合体であっても見事な走りみせてくれる、と同時に高い趣味性をも持ち合わせていること。古い機械を理解し自ら率先して相棒の面倒を見る気の有る者なら必ずや生涯の友になる。この古典的な車体の中に多くの魅力が隠されているんだと私がドーン!と保証してやる。たった100キロ足らず走っただけで手放せなくなるこのA10は文句なく素晴らしいモーターサイクルだと私が断言してやる・・・

後日オーナーのH氏からのメールが届きましたよ。

「今日(1/4)、白浜まで行ってきました!
ほとんど高速でしたが往復約300KM、絶好調です!!
乗っていてスゴく楽しいです。なんとも気持ちのいいバイクです!
CB750よりA10の方が自分には合ってる感じがして。
ホントにありがとう。また一緒にツーリング行こう!!」

彼は以前、ホンダのCB750K1を乗ってた伝説の全開ライダー。
嬉しい言葉を頂きましたよ。
ホンダCB750の作業はコチラです。

参考記録
一般道走行距離・・・・・91.9km
ガソリン使用量・・・・・・4.03L (無鉛ハイオク)
燃費・・・・・・・・・・・・・・・22.8km/L




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Posted by nunobiki_classics at 00:54 │作業完成報告 BSA