2020年02月03日

1958 NORTON DOMINATOR 88 長野県Tさんプチ報告その16


古いモーターサイクルの多くは、こうしてエンジンとギアボックスが独立していてそれをチェーンで連結する。そして、今日のサンデーレースなどでは強化繊維の織り込まれたベルト駆動が広く利用されている。


この88は、スタンダードのカバー類が取り外されたいわゆるオープンプライマリーだ。


見ると、センターナットにはワイヤーロックが複数かけられ、締めても締めても続くナットの緩みに、ずっと悩まされていたようだ・・・


で、ここには走行中のスロットルの開閉により激しい応力が集中する。なので、大きなスプライン加工が施されている・・・実は、元々ドミ系のここにはウイークポイントがあるんだ・・・


スプラインを良く見てみよう・・・ヘコミとデッパリの幅が違う事が分かるだろうか?・・・これは、メインシャフト側を保護しクラッチセンター側に負担が多く分配されている格好だがこれがドミ系の弱点となる・・・次にその奥を見ると、どん突きになっているね?要するにナットを締める事によりこのどん突きの面とメインシャフトの端面を締結する格好だ。だが、一点に応力が集中するこのやり方もスプライン同様弱点となる。


で、コマンド系ではそのどん突きを廃止し軸に対してフリーとした。そして、ギアボックス側にロケーションサークリップとカラーを使った固定場所を設け応力を分散させる。更に、スプラインの幅を同じとし、それ以降、ドミ系の弱点である編摩耗と緩みは解消したと言う訳なんだ。なので、この部分のドミ系とコマンド系には互換性はない。


これはこの88だ。おかしいと思わないかい?・・・驚いた事に互換性のないドミ系とコマンド系を合わせてしまっている・・・これではいくらナットを締めても緩み続けて当然の状態だ。


この写真を見て、怖くならないかい?・・・長いメインシャフトの先端に片手で持てない位の重いクラッチが載っている。更にスロットルの開閉で激しく前後に振られる、それが走行中に高速回転するんだぞ・・・「こんなに危険な状態なんだ・・・」そう思ってしかるべきだ。


最近では、一般の素人さんでも手軽にバイクの整備をやるようになったとか・・・こんな時代だからユーチューブを見れば即整備士クラスになれるらしい・・・インターネットで調べれば即ベテランの整備士になれるらしい・・・だがな、この重いクラッチがサーキットコースで飛んで行ったなら・・・路上の通行者に当たってしまったなら・・・一体どうなると思う?・・・サンデーメカニックの皆さん、やっていい事と悪い事があると明日から肝に銘じて欲しい。


そして、製造元のボブニュービーレーシング社に連絡をとると、これは当社の初期のモデルだから危険だと新調する事に・・・届いたモノを見ていると「イギリスっていいよなぁ…モノがいいよなぁ…」 モータースポーツの聖地イギリスってやっぱりいいんだよなぁっと思う訳。 ボブニュービーレーシングは→コチラ


古いブリティシュのクラッチとは比較しようがない位に出来が悪い。だから、こうした精度の高いモノを入れることによって安全性がすこぶる高まる。他人事ではないと皆さんにも認知してもらいたい。


皆さんはたかがクラッチだと思うかもしれない。しかし、エンジンが5千回転廻ればここはおおよそ2.5千回転廻る。その回転の勢いとはタコメーター如きのモノじゃない。だから私はこうしたオープンプライマリーなど大反対だ。万が一、取り返しのつかない事になったならどうするんだ。
けれど、今回は修理の依頼だからオーナーの意向を曲げてまで仕事をする事もそれにそぐわない。しかし、何れの日にか「カバーつけましたよ…」 Tさんがそう言ってくれる事を期待したい・・・



  

Posted by nunobiki_classics at 01:02作業中車両のプチ報告