2013年07月12日

クラシックスなものが大好きなあの人のコマンド その3

1971 NORTON COMMANDO PRODUCTION RACER REPLICA
クラシックスなものが大好きなあの人のコマンド その3
車体の基本的な構成が完成し、これからプロダクションレーサーとしての作業が始まる。ひと口にプロダクションレーサーと言っても、世の中にはいろいろと存在する。高い趣味性の持ち主であるこのオーナーには、当然ながら低いレベルのものは渡せない。走る事が大好きな大人が所有するにふさわしい、高品質な外観的仕上と高い動力性能、更には絶対的な安心感が必要になる。
クラシックスなものが大好きなあの人のコマンド その3
ノーヴィルパーツとは、当時のレース用部品の呼称。高価で高性能、当時の若者のあこがれのパーツだ。このコマンドにも純粋なノーヴルパーツを随所に使う。価格はそれなりにするものの、上質なレプリカを作る上での鉄則だ。高価なロッキード製のブレーキやハブのひとつひとつにも強いこだわりをもって作業する。
また、当時の英国ダンロップ製のバランスドリムも、スチール製のダンロップリムと同じく今では入手の可能性は限りなくゼロに近い。それでも忠実に再現されたレプリカを用意する。少しの形状の差でも、全く意味をなさなくなる。気品の高さがなければレプリカとは言えない。それが大人の趣味としての絶対条件だ。
クラシックスなものが大好きなあの人のコマンド その3
何も知らない向きには意外に思える事に、こうした海外で製造されるリムは驚くほどに精度が低い。よって、こうしたモノを短時間で効率よく組み上げるにはそれなりの場数を踏む必要がある。神経を集中させ極力無駄を省き高い効率性で挑む。とんでもない精度のモノを、まるで日本製のリムのようにさりげなく仕上る事はそう簡単な事ではないんだ。
しかし、皆さんから見れば、ホイールは単なるホイールであって何の感情も起こらない。
「なんだよ.....只のホイールじゃねえか。」その程度だ。
しかし、作り手にとっては大切な我が子。そのスポークの一本に、小さなニップルのひとつひとつに強い愛情が込められている。「おーっ、イイじゃないか!」と、この凛とした姿が分かる感性の持ち主こそ、高品質に仕上げられたプロダクションレーサーを手中にできるにふさわしい資格の持ち主なんだ。
クラシックスなものが大好きなあの人のコマンド その3
これは、当時のロッキード社製のブレーキシステム。皆さん大好きなフローティングディスクのはしりだ。1970年代の最先端の純レーシングパーツは、今見ても美しく溜息が出る。皆さんの言う、やれブレンボだ、やれオーリンズだと、現代に於いてそれは純粋に素晴らしいモノに間違いは無い。けれど40年前の当時にもそれらに匹敵するこうした憧れのパーツが存在した。それを今の時代に忠実に再現し、更にはこうした当時の若者達の夢を今一緒になって追いかけてみること・・・。クラシックモーターサイクルでの高い趣味性とは只単に走れば良いのではなく、こうした楽しみ方を言うんだと思う・・・・・。
クラシックスなものが大好きなあの人のコマンド その3
これが、そのブレーキシステム一式だ。当時のマスターシリンダーは、一体型のタンクを持つ同型のもの。しかし、今回は使い勝手を考慮しアジャスト可能なタイプを取り付けた。ホースの取回しも現代的なものとせず、当時の雰囲気をわざわざ再現する。
当時の英国製ブレーキシステムでは前のブレーキに製動力はない。いつもの話だ。しかし、このプロダクションレーサーのフロントには高い制動力を与えている。マスターシリンダーのサイズもしっかりと握りしろのでるものとした。間違いなくコーナーの進入にワクワクする。そんな設定としてみたんだ。
クラシックスなものが大好きなあの人のコマンド その3
後のドラムブレーキには、本来こうしたベンチレーターの類は無い。過去の寸法の型を元に忠実に穴を開ける。このパックプレートは結構な厚みがあって、通気口の穴6箇所を開けるにも労力が必要。しかし、プロダクションレーサーとしては欠かせないアクセサリーなんだ。
クラシックスなものが大好きなあの人のコマンド その3
スチールの板に通気口の大穴と、スクリュー用の小穴を開け切断し、メッキを掛ける。更にメッシュ状の板を同形に切断する。そして、フラットな溝のスクリューは、このベンチレーターに欠かせない。こうして当時の雰囲気を踏襲する。小さな事ではあるけれど、ここも大切にしている私のこだわりだ。
クラシックスなものが大好きなあの人のコマンド その3
電装系の仕事も、大切な私の仕事。どんなに裏側のモノにでも、危険な匂いを見つけ出す。当時のスイッチの類は殆どがかしめてあって分解を拒んでいる。5年や10年ならそうであっても、40年も経ったものをそのまま使うのか?意地でも分解し中を確かめる。こうしたスイッチの英国車を皆さんは大金をはたいて買っていると知るべきだ。
クラシックスなものが大好きなあの人のコマンド その3
徹底的に調べ上げ、時には配線をやり直し、時には半田もやり直す。どんな場合も電流が流れる事が必要なんだ。電気の部品はウソは言わない。流れるのか?流れないのか?ふたつにひとつ。誰が見ても分かる話なんだ。
クラシックスなものが大好きなあの人のコマンド その3
このコマンドには、出力を上げた充電系統にモディファイする。通常の発電能力の40%程度高め、余裕を持ったものにする。もちろん標準の能力でも走れる。スリル感を含めて楽しくさえある。個人的には大好きな部類だ。けれど、忙しいこのオーナーには余裕を持った安定感を授けたい。セルモーターのないコマンドに十二分な性能を与えた。
クラシックスなものが大好きなあの人のコマンド その3
更にМFバッテリーを使うためにレギュレータ&レクチファイアーを現代的なモノとする。高い制御性能により可能なこのシステムは、車体にも優しい働きをする。場所を吟味しプレートを製作ししっかりと固定する。
クラシックスなものが大好きなあの人のコマンド その3
さりげなくある布製のハーネスが皆さんに見えるだろうか?なんでもないこの布製のハーネスも私が大切にしている小道具だ。当時のままに再現する。黒いビニールに巻かれた配線では胸を張って良い仕事をしたと言えはしない。誰が見ても納得できるモノ。それが高いレベルの仕事だと言える。更に、配線にはいろいろな色が有る。回路毎に決まっている。それも絶対に適当な色を使わない。どんな素人さんが配線図片手に追いかけても分かるように仕上ておく。それも高いレベルの仕事と言えるんだ。
クラシックスなものが大好きなあの人のコマンド その3
本来、プロダクションレーサーにはアマル社製のGPキャブレターがつく。しかし、公道でツーリングを楽しむのにそれはない。始動性もよく安定したモノが必須。本来コマンドの750には、口径が30ミリが標準だ。私も通常のモデルであれば楽しく走れる30ミリを迷わず選択する。しかし、今回のエンジンには圧縮比やリフト量の多いカムなどを中心に高い性能を持たせている。よってコンパット用の932を基本に各部を組み替えて使用する。
クラシックスなものが大好きなあの人のコマンド その3
そしてエアークリーナーなど、そんな甘っちょろいものはない。ベロシティスタックがズドーンと構える。これがプロダクションレーサーの正しい景色だ。雨も風も何でも入り放題。そんな極端さがこのモーターサイクルには似合うんだ。
クラシックスなものが大好きなあの人のコマンド その3
プロダクションレーサーとして製作した各種のブラケットや、標準の小物をまとめて塗装する。モーターサイクルの部品の数は多い。小物の数も結構になる。ひとつひとつ丹念に下地処理をし、下塗り、中塗り、上塗りをする。
クラシックスなものが大好きなあの人のコマンド その3
オイルタンクも、このように中を洗浄した後、ペイントする。本来プロダクションレーサーには、このタンクは使われていない。前期では、ファストバックと同様に四角いもの、後期のものには弁当箱のようなこじんまりとしたものが前部に載る。よって邪魔な部分をカットして再び溶接し、使えるように加工する。
クラシックスなものが大好きなあの人のコマンド その3
塗装の終わったフレームにエンジンを戻した。ここで気をつけている事は、薄く下地がはっきりと残る塗料を使うこと。のっぺりとしたフレームでは色気も何も無くなってしまう。パイプや鋳鉄の肌目が残ってこそのクラシックモーターサイクルではないだろうか?
クラシックスなものが大好きなあの人のコマンド その3
先程紹介した後のブレーキのパネルにも、こうして丹念に塗装をする。この辺りは油や汚れが激しく付着する。けれど、うちで使う塗料は強い。優れた上塗りの塗料を使う故に、ガソリンにも紫外線にもかなり強い。石油化学製品の進歩の恩恵を受けるべきところではしっかりと受けたいと思う。
クラシックスなものが大好きなあの人のコマンド その3
外装の塗装も丹念に下地処理をした後、塗り込んで行く。塗装の仕事は90パーセントが下地処理に費やされる。ガンを持って塗る時間など、それに比べればあっという間と言える。けれど、どちらも真剣に真面目に立ち向かわなければ良いモノは生まれない。一瞬たりとも気が抜けない塗装の仕事。これもまた、やりがいのある仕事と言える。
クラシックスなものが大好きなあの人のコマンド その3
サイドパネルとペトロールタンクにはロゴが入る。今回はオーナーの希望でシルバー色とした。プロダクションレーサーと言えばキャナリーイエローが定番だ。しかし、それは誤解と言いたい。こうしたファイバー製品には必ず最初にゲルコートと呼ばれる樹脂を型の最初に塗りつける。その後ポリエステル樹脂とガラス繊維を積層する。その最初の樹脂がゲルコート。それがプロダクションレーサーの場合イエローだ。その当時も、レースに出るために受け取った顧客は想い想いの色に塗る。ある者はチームカラーにし、ある者はスポンサーカラーにした。そのキャンパスがイエローだと言う事。よって赤でも青でも好きな色に塗ればいい。イエローだけが正しいなんてお門違い。自由に塗る、それが正しいプロダクションレーサーの使い方なんだ。
クラシックスなものが大好きなあの人のコマンド その3
余りにも行った作業が多過ぎて、ここに書いた事はほんの一例に過ぎない。本気でこの手のマシンを作ることなど容易くは無い。それだけに、人一倍このマシンに込める思い入れは強い。
1970年代初頭にヨーロッパ各地のサーキット疾走していたレーサーの実際を、今の時代に味わってみたい。オーナーの強い思いが私には如実に分かる。スロットルを捻り頭を低くし、足でマシンをホールドし、身体をスクリーンの中に押し込んで、弾丸のように立ち上がって行く姿を、必ず彼に味あわせてやる!
今日、新規検査も終え彼のマシンが日本の地を走る事が許された。
これから、恒例の試運転に向け最後の仕上げに取り掛かろうと思っている・・・・・
試運転の状況はコチラ

同じカテゴリー(作業完成報告 ノートン編)の記事画像
1973 NORTON COMMANDO 850Mk1A 兵庫県K様 納車報告です。
1970 NORTON COMMANDO 750S 神戸市M様 納車です。
1969 NORTON COMMANDO 750 FASTBACK 修理作業記録 東京都T様
1971 Norton Commando 750 Roadster MkⅡ納車記録
1973 NORTON COMMANDO 850 Mk1A 納車整備記録 東京都世田谷区T氏
NORTON Commando 750 Roadster MkⅡ 1971 フルレストア車
同じカテゴリー(作業完成報告 ノートン編)の記事
 1973 NORTON COMMANDO 850Mk1A 兵庫県K様 納車報告です。 (2019-10-24 20:45)
 1970 NORTON COMMANDO 750S 神戸市M様 納車です。 (2019-04-03 13:16)
 1969 NORTON COMMANDO 750 FASTBACK 修理作業記録 東京都T様 (2017-08-15 21:49)
 1971 Norton Commando 750 Roadster MkⅡ納車記録 (2016-09-14 14:27)
 1973 NORTON COMMANDO 850 Mk1A 納車整備記録 東京都世田谷区T氏 (2015-07-19 22:29)
 NORTON Commando 750 Roadster MkⅡ 1971 フルレストア車 (2015-03-21 18:34)

Posted by nunobiki_classics at 23:32 │作業完成報告 ノートン編