2016年09月14日
1971 Norton Commando 750 Roadster MkⅡ納車記録
2014年にフルレストアを施したロードスター、外観は平静を保ち内部には私のノウハウを取り入れたスペシャルだ。 過去のレストア作業はコチラ
当時のコマンドのエンジンとは酷いモノだ。緩慢な初期モデル、不調でトラブル多発のコンバットエンジン、コネクティングロッドがクランクケースを突き破る850など目を覆いたくなる。だから現存するコマンド達は更にコンディションが悪い訳だ。
そこでこのコマンドでは、今までの経験値を元に刷新している。低速トルクは太く登坂能力も750としては抜群の力強さ。何よりも実走行時でのスロットルレスポンスが良く、走る楽しさは格別だ。
コマンドの車体整備は大切だ。アイソラスティックシステムにロードホルダーを始め的確に作業する。只組むだけでは上質な乗り味には至らないコマンドの山場だ。
そして、特に高い完成度を目指したのが制動装置。ノーヴィル製のブレーキシステムを組み入れクラシック感と性能を両立させその効果は絶大。最早750㏄ハイパワーエンジンの場合これ無くして走れない。
本来コマンドのリアブレーキは相当曖昧で、ペダルを踏んでも意図したように効かない。ここにも私の経験値を入れる。 「ス―――ッ」 と来る抜群のタッチはコマンドを知る者なら驚きだ。
コマンドのタイヤは主に3種類。初期のエイボンスピードマスター系、中期のロードランナー系、後期はダンロップK81のTT100だ。そして、1971年のロードスターにはこのロードランナーが欠かせない。マッドガードと共にナローな景色が通を唸らせる。
そうして仕上げたスペシャルコマンド、今回新たなオーナーに引き継ぐ事になった。大型のアメリカ製バイクを愛用するY氏を落胆させてはいけない。更に気を引き締めて万全を期した。
そして、完成したコマンドを愛車のシボレーK1500に積み魚崎の陸事で検査を受けた。
さあ、走りだそう。真夏の空の下、恒例の試運転へと出かける。 「ズドッドッドッドッドッドッ!・・・」 エンジン各部の温度が均一になる頃、大きくスロットルを開けた…
コーナーを軽快に駆け抜ける事はコマンドの最も得意とするところ、皆さんも私と一緒に走ってみよう!
コーナーのアウトに出たならスロットルを思い切って開け続けてみよう。頭を伏せて目線はストレートエンド、ギアはサードからトップに上げた!「ズバッバッバッバッバッ・・カッコン・・ズバッバッバッバッバッ!・・・」
両足の膝でタンクを挟み車体を維持、両足裏のフットワークに備えろ!肩を丸めて腕は柔軟にグリップはしっかりと握り路面を把握せよっ!いつも腹筋と背筋と太ももの筋肉を意識して、いざっコーナーへ飛び込んで行けっ! 「ズバッバッバッバッバッ!・・・ズッドゥーーン・・・」
遅い遅いっ!スピードを下げちゃ駄目だ!もっと速度を高く維持しなきゃっ! 「ズバッバッバッバッバッ!・・・ズッドゥーーン・・・」
もう一度コーナーに入るぞっ。ストレートで限界まで加速したら頭を上げて!スロットルを戻し!クラッチを切り!ギアを下げ!スロットルをあおり!クラッチを繋ぐ! 「ズバッバッバッバッバッ!・・・トンッ・・ズッドゥーーン・・・」
ブレーキレバーを抜きつつ引きずりながら車体をを思い切って倒してみろっ!目線はコーナーのアウトを追え!忘れるな!両足のフットワークで車体をコントロールだっ! 「・・・ズッドゥーーン・・・ズバッズバッズバッ・・・」 そらっシケインが迫って来たぞ、ここは切り返しの速さが命だ! 「・・・ズッドゥーーン・・・パンッ・・・パンッ・・・ズバッバッバッバッバッ!・・・」
ここは岡山県の因美線 「美作滝尾駅」 ずっと訊ねたいと思っていた昭和の駅。この旅の目的地に選んだ。

木造の駅舎をそっと覗くと荷物を抱えた沢山の乗客が列を成し、駅員さんが「カチャカチャ」と切符を切っていた…

事務所の中には石炭ストーブが赤くヤカンの先から湯気を立て、別の駅員さんは到着した小荷物の仕分けに忙しい…

野球帽を行儀良く被った私は、小さな手で切符を握り締め、待合室の端っこに一人ポツンと列車を待っていた…
すると 「シュッシュッシュッシュッ・・・カコンッ カコンッ・・・」 黒い煙をモクモクと上げた機関車がホームに入って来た 「ボッオ―――――!」 余りに大きな汽笛にびっくりして思わず両手で耳を押さえたんだ… 「うわぁーっ!すごーい!カッコイイ!・・・」

あれから50年…誰も居ないこの駅に私はひとり立ちすくみ、今強い感動を憶えている…木の手すりの何処が悪い、切符は人間が切る事で良いじゃないか…古き良き時代を垣間見れるこの「美作滝尾駅」が私の信念をそっと支えてくれる…来て良かった…訪ねて良かった…またひとつ大切な宝物に出会えたんだ…
「さぁ帰るぞ、コマンド!・・・」 スロットルを大きく開けて中国道津山インターを一気に駆け上がった。 「ズバッズバッズバッズバッズバッズバッ!・・・・」 何も考えずに只走ろう・・・ずっとずっとひとりで走って行こう・・・きっと・・・きっとそれでいいんだ・・・
背中から射す陽が傾いて来たから、途中のインターで降りてみた。二度と同じ風景には出会えないから、この目に焼き付けておきたいんだ・・・
愛車も一日走らせれば、汚れて艶が落ちて悲しい顔をする。そっとウエスで拭き取ってやろう。愛車を傷つけ苦しませている張本人は我々なんだ。
旅に出たなら立ち止まり、愛車と共に美しい景色を一心に見るが良い。 「あっという間に過ぎ去って行くたった一度の人生の中で走るのは今なんだ!」 きっときっとそれが見えて来る・・・
そしてオーナーである彼ががわざわざ列車を乗り継ぎ工場まで来てくれた。岐阜から新幹線と在来線を乗り継いで来てくれた。心から感謝したい・・・
工場で実車を前に説明をした。私の動作を見せて同じことをやってもらった。彼なら大丈夫、後は古いモーターサイクルのイロハを学ぶだけだ。 布引流英国車講座中級者編 どうぞご覧ください。コチラ
そして、彼が生まれて初めての英国車に乗る。これから自力で岐阜まで帰って行く。ちゃんと帰れるかな?楽しんでくれるだろうか?無事に自宅に辿りついて欲しい。心からの願いだ・・・
そして最後に彼に伝えたい。この心血注いだコマンドは私の宝物。けれど遠くの地でひとり不安に怯えている。どうか手に入れた責任を感じて欲しい。最後まで面倒を見る覚悟を見せて欲しい。この日本で最高の仕上がりを見せるこのロードスターでも、頼れる者は世界でたったひとり、若宮さんしか居ないんだ・・・ 2016.9.15 布引クラシックス 松枝
後日、Y氏よりお礼の連絡を頂きました。是非ご覧ください。
「今、無事に着きました。今日は色々と朝早くからご指導していただきましてありがとうございました。コマンド最高です!音といい、バイブレーションといい今まで味わったことのない感覚でした。右の変速には戸惑いましたが、乗りこなせるよう頑張ります。SAに止まるたび、バイカーにかっこいいですねと、声掛けられました。優越感に浸りながら帰ってきました。一生モノにします。大切に乗ります。本当にありがとうございました!」
「お疲れさまでした。喜んでもらえて良かったです。徐々に自分のモノにしてくださいよ!また一緒に御嶽山走りましょう!松枝」
参考資料
一般道 走行距離 244.7km
高速道路 走行距離 101.4km
総走行距離 349.1km
ガソリン(無鉛ハイオク) 15リットル
燃費 23.2km/L
試運転コース往路
試運転コース復路
1973 NORTON COMMANDO 850Mk1A 兵庫県K様 納車報告です。
1970 NORTON COMMANDO 750S 神戸市M様 納車です。
1969 NORTON COMMANDO 750 FASTBACK 修理作業記録 東京都T様
1973 NORTON COMMANDO 850 Mk1A 納車整備記録 東京都世田谷区T氏
NORTON Commando 750 Roadster MkⅡ 1971 フルレストア車
プロフェッショナルな彼の為に仕上た一台のロードスター
1970 NORTON COMMANDO 750S 神戸市M様 納車です。
1969 NORTON COMMANDO 750 FASTBACK 修理作業記録 東京都T様
1973 NORTON COMMANDO 850 Mk1A 納車整備記録 東京都世田谷区T氏
NORTON Commando 750 Roadster MkⅡ 1971 フルレストア車
プロフェッショナルな彼の為に仕上た一台のロードスター
Posted by nunobiki_classics at 14:27
│作業完成報告 ノートン編