2019年10月24日
1973 NORTON COMMANDO 850Mk1A 兵庫県K様 納車報告です。

古いモーターサイクルはカッコよく見える。しかし忙しい現代社会においては充分な整備を与えられず不調なままな場合が多い。「バイクは故障なんてしないぜ、3年保証が当たり前だろう?・・・」コンピューターと消費者保護法に守られ、どっぷりとぬるま湯に浸かり切った現代人には1970年代までのモーターサイクルは最早扱えない。そんな時、各部をモディファイする事が有効となる。理想を描く事は良いが現実を直視する事も大切。そこで今回は不要なトラブルを避ける堅実派のための対処方法を改めて紹介したい。
古そうなステーターコイルを先ず交換せよ!
モディファイの筆頭は何と言っても電気系統だ。その中の核が発電装置、中央の丸いモノが中に永久磁石を配したマグネットローター、その廻りが複数のコイルで構成されるステーターコイル、電磁誘導作用を利用して交流電流を発生させる発電機だ。
1960年過ぎから使われるルーカス社製のステーターコイルはRM19で始まり1960年終盤からRM21に変わる。交換の目安は6V車12V車共に35W程度の前照灯の場合はRM19で容量を満たす、前照灯に60/55W程度の電源を想定するならばRM21を選択。ETCやUSBの電源が必要と言う変態性英車乗りの場合はRM21にすれば安心だ(笑)。
レギュレーター&レクチファイア交換で安定性を担保せよ!
一般的に自動車では交流を直流に変換し用いている。黒いモノがルーカス社製のレクチファイアでステーターコイルから来る交流電流を直流電流に変換する。
更に、回路内では一定の電圧の幅に抑える必要もある。これはツェナダイオードと言って回路内で余剰になった電気エネルギーを熱エネルギーに変換、放熱する事によって電圧を一定の範囲内に制御するものだ。
それに対するこれが現代のレギュレーター&レクチファイアで、今言った双方の機能がワンパッケージになっていいるもの。モノによってきめ細かな制御を可能とし回路の安定性を図る。で、旧式であるオリジナルのシステムでも正直なんら問題の無い性能を発揮する。だが次の話の為には交換が必要になってくるんだ。
どうせしないバッテリー管理、それならМFバッテリーを入れろ!
オリジナルのバッテリーとはこのような希硫酸を用いるいわゆる液入りバッテリーが使われる。中の液面が数か月単位で下がってくるから定期的に補水しなければならない。この時代の当たり前の話だ。
で、皆さんに「定期的な補水が必要ですよ!」と言っても100%見る人はいない。どんなにやりますと言っても結局はしない。これは私の経験から言って実証されている。よって無駄な抵抗はやめてさっさとМFバッテリーに交換するべきで、その為には先の作業と対で行う必要がある。
古そうなメインハーネスは命取り、必ず交換せよ!
これはメインハーネス、車体を張り巡らす神経の役目を果たす。電気は目に見えないから、古いと思えば思い切って交換して欲しい。何故なら交換する事によるデメリットはないが、交換をしない事でのリスクは至る所にあるからだ。
で、こうした電気装置を完全整備する事が堅実派の第一歩。とにもかくにも電気装置は完全整備以外にない。
イグニッションシステムなくしてエンジンの完全整備はない!
そして最後は点火装置。1970年代中盤位までの自動車の世界では機械式の点火装置が一般的だった。欠点はコンタクトブレーカーの接点に結構な電流が流れやがて焼損し、何れエンジンの調子を崩してしまうこと。その為に定期的なメンテナンスが必要になる。
しかし、忙しい現代人である皆さんが、オリジナルの機械式点火装置の調整を的確にしますか?接点を磨いて整えて、ギャップを調整して、エンジンかけてタイミングを調整する・・・そんな時間ありますか?無接点式なら何もしなくて結構です。いっつも快調全くのノープロブレムです。ビギナーなら最初は無接点式でスタートし、機械式に興味が湧いたら交換すればいい。先ずは存分に走って愛車を理解する、その上でオリジナルに戻すならその意味も更に分かる訳だ・・・
不安定な英国車の諸悪の根源はこのアマル社製キャブレターにあり!
もう既にこの話は布引流英国車講座で言ってるので手短に言うと、熱帯地域の日本の真夏にアマル社製キャブレターを使うな!っと、こういう事。それでも走るなら、エンジンをキャブを冷やす工夫をしろっ!・・・でしたね?
世界最高品質のキャブレター生産国はこの日本です。京浜に三国工業ではとんでもなく素晴らしいキャブレターが訂正価格にて販売されています。海の向うアメリカではこうして日本製のミクニ製のVMキャブレターに換装する事が一般的。取り付けると・・・夏も冬も関係なし「オールシーズン、エッブリデイ、&エッブリタイム イッツァ ファンタスティック!・・・」アマルのキャブレターに疲れ果ててしまったら一度試す価値あり。後は皆さんが上手になってから改めてアマル社製キャブレターに戻せばいい、それだけの話なんだ・・・
では、ビギナーに対する対処法をまとめます・・・
・充電装置&メインハーネスは刷新せよ!
・点火装置は我がままなやんちゃ坊主、あっさり交換せよ!
・アマルのキャブは諸悪の根源、完全整備と運転センスがないならあきらめろ!
では、本題に戻りたいと思います・・・
今回のオーナーは地元兵庫県のKさんで、50代のいわゆるリターン組だ。で、彼が選んだコマンドには先に紹介したフルトランジスター点火装置に充電装置にメインハーネスなどの作業が既に盛り込んである。
その他、アイソラスティックにエンジンのO/Hなども過去に作業済み、ホイールから車体、エンジンから電装系統へと全ての状態が高いレベルに維持されている。
只、このアマル社製キャブレター932は状態も調子もすこぶる良く是非使いたい。直前にO/Hも行っている。

全ての整備を終えた後、新規検査を受けて試運転へと進む・・・
そしてコマンド850を走らせた。「ズバッバッバッバッバッバッ!・・・カッコンッ・・・ズバッバッバッバッバッバッ!」
コマンド750をベースにボアを73から77mmへと拡大しストロークは89mmに圧縮比は8.5:1、キャブレターはアマル社製932だ。数値ではその変化は小さいかもしれないが、そこには750とは全く違う世界が待っている!

「ズバッバッバッバッバッバッ!・・・」 先ずサウンドの太さが違う。その違いは明らかで750にはない力強さが吠える・・・
山間部に入り駆け上がって行くと、これがまたいい。「ズバッバッバッバッバッバッ!・・・」後輪の蹴る感覚も格段に増していて笑う位に頼もしく180キロ台の軽量な車体が完全にそれに寄与している・・・
コーナーでは右に左に思う存分やっていい。「ズバッバッバッバッバッバッ!・・・ズッドゥーーーーン・・・カッコンッ・・・ズバッバッバッバッバッバッ!」 とにかくトルクの厚さが全てをアリにしてくれる。回転が下がり過ぎても上手に微妙にスロットルを廻せばエンジンはついてくる・・・それが次へコーナーへの足掛かりとなる・・・
倒せばぐっとステアリングヘッドが下がり旋回から逃げない。前後19インチ大径ホイールにつく細いタイヤでも逆にシャープに弧を描けるからその軌跡がはっきりと伝わる。「ズバッバッバッバッバッバッ!・・・ズッドゥーーーーン・・・」開ければトルクの強さで軽い車体をグングンと押し、倒せば4.10-19インチがスーッと旋回をしてくれる。それは々何度やっても楽しいんだ・・・

繰り返すけれど、5mmのボアの拡大が単にトルクの増大に留まらず、車体としての性格までも大きく変えている。ややもすると750の優れたバランスを崩すことになり兼ねない恐れもあったろうに、逆に更に前へ前へと積極性を醸し出し、大排気量車の強さを見せると同時に750の繊細なコーナーリング感覚を失わせずまとめあげている 「なんというモーターサイクルなんだろう・・・」 そして、高速道路、国道9号線に県道をつなぎあっという間に山陰は餘部鉄橋に着いた・・・
私も過去に多くのコマンドを走らせた。どのモデルに乗ってもその楽しさの源は機関から発せられる鼓動感に他ならない。ファストバック、ロードスター、インターステイト、ハイライダー、プロダクションレーサーレプリカ・・・ところが同じ構成を持っていてもモデルが違うだけで大きく乗り味が変わってくる側面もあるし、更に同じモデルでも個々によって違ってくる。時には微妙に、時には大きく変わるその感覚の違い・・・何れにしてもコマンドは、どんなモノに乗っても笑う位の楽しさを乗り手に与えてくれる、それはみんな変わらないんだ・・・

そんな中でも、このコマンド850Mk1A インターステイトは抜群に楽しめる部類だ。大らかさを武器に何に対しても怖いモノ知らずに突き進んでいける。要するに「戦車とフラミンゴが同居するコマンド850Mk1A」と、表現できる・・・素晴らしい、こんな都合の良いモーターサイクルが今あるだろうか?「何だったらこのまま能登半島まで行ったるぜっ!」俄然そんな気にもなる・・・

そして空を見上げれば夕陽が空を染めている 「あぁ…なんて清々しいんだろう…」 無論、何をしても人の勝手だし皆に古いモーターサイクルに乗れなんて言った覚えもない。けれど、こうして1973年製のコマンドを走らせ遠くに居るとそれには明確な違いがあって何とも言えない価値観がふわ~っと空から降り注いでくる・・・

芦屋の街から日本海までこのコマンド850は私を安全に運んでくれた。革のジャケットにお気に入りのヘルメットにスチール製の愛車・・・そんな時、自分が少し男前になった気にもなる 「俺ってイケてる?・・・」 流石に私にはもうそれはないが、モーターサイクルを愛する男なら皆勝手に主役になってんだ・・・そう、Kさんにもそうなって欲しい、彼にもう一度「男前」になってもらいたい・・・その為にこの「エイトフィフティー」を準備して来たんだから・・・
そして、納車の日が訪れた。Kさんにはしっかりしたヘルメットにブーツやちゃんとジャケットを着るようにと言ってある。体が硬いからストレッチで備えてくれ・・・とも言ってあった。
彼は学生時代ラグビー部に所属し体には自信があると言っていた。それでも彼と共に走る練習をする。「ズドッドッドッドッドッドッン!・・・カコン・・・ズドッドッドッドッドッドッン!」 最初は戸惑って当たり前なんだ・・・
そして、その走り込み?は1時間以上も続き徹底して慣れてもらった。古いブリティシュどころかバイクに乗るのも久し振りの彼には大変な一日だったのかもしれない。それでも人生は一度きり、それは彼にも同じ事。ラグビー部で鍛えた体と根性があるのならここから這い上がって完全に愛車を乗りこなす事が筋書だ。
誰も頼れない、走れば己の力で進むしかないモーターサイクルの世界。その為に冒頭のモディファイを施し備えてきた。それは間違いなく彼のモーターサイクルライフの成功への手助けになる。頑張って頑張って汗して涙して突き進む事を、50代になってもやり遂げなきゃ男じゃない!苦労が多い程、達成した時の幸せは尊いモノになる。絶対に男前になるんだ!きっと彼ならなってくれると私は信じている・・・ 2019.10.24 布引クラシックス 松枝
作業中のプチ報告はこちらです→その1、その2、その3
試運転コース
参考記録
一般道走行距離・・・・・・・・230.9km
高速道路走行・・・・・・・・・・211.8km
総走行距離・・・・・・・・・・・・442.7km
ガソリン使用量(ハイオク)・・・17.85L
燃費・・・・・・・・・・・・・・・・・・24.76km/L
タンク容量・・・・・・・・・・・・・24L(5.3Imp.Gal.0)
航続距離の目安・・・・・・・・495km(20L)
Posted by nunobiki_classics at
20:45
│作業完成報告 ノートン編