2020年01月27日

1958 NORTON DOMINATOR 88 長野県Tさんプチ報告その15


ここまでことごとく不具合が続いているから、この先波風立てずに進んで欲しい・・・それが今の率直な想いだ。


「これも怪しいなぁ…」オリジナルの88は376のシングルで、この88はシリンダーヘッドと共に換装され930ツインとなっている、が・・・


それは私の想像を超えていた。二基の930の内部はまるで子供のおもちゃのように下品な作業が繰り返されていた・・・


結局、何年も続くオーバーフローの対処ができなかったこの930。樹脂製のフロートの先端を曲げフロートレベルを下げようと試みる・・・悪いがそれでは想定通りの効果は得られない。


のぞき込むとフロートバルブのシートの位置がおかしい 「ふ~ん・・・なるほど・・・」油面の高さと各部の位置関係は絶対で、素人がああだこうだとやるべき話じゃない。フロートの爪を曲げて上手く行かないからとシートを叩き上げる人間が一体何処にいる?


「どんなキャブでも俺の手にかかればいちころさ、俺様の手はゴッドハンドなんだよ、えっへん…」この作業を行い、さぞ満足鼻高々だったろう。だが、その前にやるべき事があるだろう・・・


メインのノズルにも違和感がある・・・本来ここは性能やフィーリングに直に影響する最も重要な箇所のひとつだ・・・


左のメインジェットの穴から燃料が吸い上げられ→ホルダーを通り→ニードルジェットでメインのエアーとエマルジョン状態の混合気となる。ニードルの形状は先細りのテーパー状となりスロットル操作に忠実に意を反映する。で、加工されたノズルは流速の変化に影響されることなく安定して混合気を噴出させる言わば保護的な守りのパーツだ。


左がこの930のモノで右がスタンダード。


「なんとも・・・」


僅かな寸法や角度でどえらい影響を与えかねない超デリケートゾーンにこんな幼稚な工作をする無神経さに脱帽だ・・・で、どうせやるなら真っ直ぐにつけなきゃイケないだろう?違うか?・・・


御覧のように30mm径のベンチュリーは大幅に拡大されている・・・更に、細く→太く→細くと、30~34mm位の幅でベンチュリー、マニーホールド、ヘッドのポートと一貫性がない、もう…なんで?・・・(奥に限界を超えた大きな摩耗がある状態がチラッと見えている・・・)


フロートバルブシート本体の位置を変え、ベンチュリー径は雑に拡大され、スロットルボディの摺動部はサンドペーパーで過大にやすられ、ジェット類は手やすりで加工され、各合わせ面は大きく歪み、更に左右でのバラつきも大きい・・・このような「基準」となるものをことごとく乱したモノをどうやって整備しろと言うんだ・・・


「出来るだけの事をして一度エンジンを掛けてやろう…」 機能を破壊された哀れな930の気持ちを考えると無性に腹が立ってきた。もう一度命を吹き込んでやりたい・・・そう思うから何時にも増して丁寧に仕上げよう、大きな歪はこうして砥石で丁寧に面を出してやろう・・・


オーバートルクではあっという間に曲がってしまうこれらには、この世界ならではの「低トルク」にて締結。これもアマル社製キャブレター整備の「基本」だ。


だが、このフロートの合わせ面への過度の研磨は避けたい。フロートのピンもある、フロートレベルにも影響する。最低限度の面取りと同じく「低トルク」で締めつけたい・・・


そしてエンジンをかけた・・・「ドッドドッドドッド・・・スッポン・・・ズッズッズッズッ・・・バッバッバッバッーーーン・・・プスン・・・」 何をやっても調子は出ない、分かってはいたがやはり駄目だ。内部をいじり倒された930は最早その機能を完全に失っている・・・直接の原因は本体の過度な摩耗だが、無知な作業が更に拍車をかけてしまった。可哀想だがこの哀れな930の再生に不本意ながら見切りをつけたんだ・・・


新しいキャブレターは、今の流れからすると376や928が一般道では最適だ。しかし、ヘッドのインレットポートを大きく拡大されているからそれも使い辛く、932では到底大き過ぎる。結局、元の930を選択するしかない。


参考までに・・・レーサースタイルに必須のベロシティスタックの話だが、元の930には三方からスクリューで固定する式をとっている。私も顧客の車両に装着する、その理由はカッコイイからだ・・・


しかし、過度な締め付けや度重なる脱着などでこのように大切なボディーが変形する (アンチモン製故に絶対に戻してはイケない)。


で、私個人の場合には左側の元々のスクリューにねじ込むアマル社製のモノを愛用している。今回はこれつけた。


「ドッドッ・・・・・ズッドゥーーーーン!・・・」 元の930の不調が嘘のように連続的な排気音が響く・・・「ズッドゥーーーーン!・・・ズッドゥーーーーン!・・・」アイドリングは安定し吹きあがり方も自然且つ健康的なモノになった。私はスロットルを優しく廻しながら「あいつの分もがんばってくれよ・・・」新しい930にそう言ったんだ。つづく・・・




  

Posted by nunobiki_classics at 16:30作業中車両のプチ報告