2018年11月06日

1965 TRIUMPH T120 BONNEVILLE 納車整備記録

1965 TRIUMPH T120 BONNEVILLE 納車整備記録
「トライアンフに乗りたいんですけど・・・」 新車のボンネヴィルに乗り彼はやって来た。 「何が?これで良いじゃないか・・・古い機械なんて大変だぞ・・・」 と、私は言った・・・聞けば1965年のボンネヴィルが欲しいと言う・・・トライアンフに何年も乗っている者ならいざ知らず1965年までのユニット650はビギナーが買うべきものじゃない。バッヂでモノを決めちゃイケないんだ。

1965 TRIUMPH T120 BONNEVILLE 納車整備記録
・・・ここは神戸港のとある保税倉庫、遥々と海を越え1965年のボンネヴィルが届いた・・・

1965 TRIUMPH T120 BONNEVILLE 納車整備記録
予算上限で手に入れる極上のボンネヴィル、普通ならこのままナンバーを取って即納できる状態ではある。しかし、エンジンはしっかりしているものの年式違いのパーツや外装の状態からブルジョア倶楽部のレベルには遠く一からやり直す事にした。お手軽倶楽部はコチラ

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クランクシャフトに始まるボトムの作業は大切だ。ひとつでも気になる箇所があるならば必ず納得いくまで作業する。この高いレベルのボトムは何年も先に必ず恩恵をもたらす「核」の部分だ。

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私の作るエンジンでは、ボルトやナット類に非常にこだわる。当時の風情を再現し更に本来の機能をも絶対的に担保する。そうすれば自ずと美しいエンジンが出来上がる・・・

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一口にピストンと言っても今となっては様々なモノが入っている。メーカーやコンプレッション、古いスタンダードから鍛造品まで・・・しかし、あくまでオリジナルの延長線上であることが望ましい。ピストンの打音でエンジンのコンディションを探れる事、それは古いエンジンには必要な事なんだ。

1965 TRIUMPH T120 BONNEVILLE 納車整備記録
シリンダーヘッドにはバルブがあって、それを支えているのがバルブガイドだ。交換したガイドの内面をリーマー加工しているところ。実際のバルブステムに合わせて最後は手先の感覚で仕上げていく。

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英国車の整備で大切なものはこうしたファスナー類。シリンダーにヘッドに使うスタットボルトはウイットウォース規格故にピッチが傷みやすい。迷った時点でスパッと交換する!そんな潔さが必要だ。

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クラシックモーターサイクルの楽しさを代表する4スピードギアボックス。見ての通りの4スピードだがここに皆さんの夢が詰まっている。

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おおらかに大陸の道を「ズバッズバッズバッズバッ・・・」っと駆け抜けるイメージはトラ乗りの最大のお楽しみ。それは、ギア比が開いているワイドレシオギアあっての事なんだ。(布引流英国車講座上級者編その4はコチラ)

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「ガタガタッ!・・・ドダバタッ!・・・ズッコンッズッコンッ!・・・」 少しの悪路で車体の暴れ廻るこのフロントフォークは密かなユニット650のお楽しみ。スリムな造形といい加減な作動性は見事なまでに車体とマッチする。決してここだけを改良してはイケない。全体のマッチングが大切な事は今も昔も変わらないんだ・・・

1965 TRIUMPH T120 BONNEVILLE 納車整備記録
新たに塗り替えたぺトロールタンク。1965年のUS3ガロンタンクだ。ブラックとゴールドに塗り分けられたバッヂにパーセルグリッド、センターモールにぺトロールキャップにニーラバーまで、全てをオリジナル再現した。布引クラシックス塗装作業のご案内はコチラ

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1965年までは左のサイドカバーにライトとマスタースイッチが着く。しかし、年式違いのスイッチに変えられていてその為にカバーの穴も拡大されいる。これでは1965年までのルーカス社製SA88のスイッチが着けられない・・・

1965 TRIUMPH T120 BONNEVILLE 納車整備記録
鉄板を切り出し形を整え穴に丁度のモノを作る。それを裏面から溶接して取り付ける・・・すると違和感なく元の形を再現できる。皆さんもご自分のこのサイドパネルを見ると良い。意外にもスイッチの種類や取り付け方が年式により違っているのが分かると思う。やはりその位置、数、更にはルーカス社製のスイッチのその種類、これらを年式通りに守る事はトライアンフ作りのひとつのルールだ。

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で、隣にあるオイルタンクは1965年まで必ずクラックが入りオイルがリークする設計的な不備がある。全てのタンクが溶接等により修復を受けるものの、酷い状態のモノが常。よって今では貴重な新古品を世界中から探し出し確保した・・・で、なぜわざわざ手間をかけてここを修復する必要があるのか?リプロ品を着けて適当にやれば仕事は早く進みお客は喜ぶじゃないか・・・しかしこのふくよかなラインを描くシート下の絵はユニット650の色気でもある大切な箇所。手間をかけても時間を掛けてもツボを押さえる事は我々の義務なんだ。 

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今回のオーナーは全くのビギナー故に強制的にトランジスター式のイグニッションとレギュレーター&レクチファイアを取り付ける。先ずはトラブルなく走らせる事・・・こだわるのはその後からだ。

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このアルミ製の板はレギュレーターの放熱板も兼ねていて出来るだけ大きくしたい。それを風の当たる所、且つ見えにくい所へ絶妙な間隔で入れて行く。

1965 TRIUMPH T120 BONNEVILLE 納車整備記録
バッテリーケースと共用する固定部分はこのようにラバーのスタッドを入れた。ラバーマウントのバッテリーケースの動きを妨げない為だ。これで不自然さも機能を失う事なくスマートに装着できる。

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これはロッカーボックスへとオイルを供給する為のフィードパイプでトライアンフの外観上のアクセントにもなっている。パーツはストレートでそれを曲げて作り上げていく。

1965 TRIUMPH T120 BONNEVILLE 納車整備記録
ここのスペースは非常に狭くなんでこんなに狭いのか?と思う程にスペースがない。製作したフィードパイプを何処にも当たらずに取り付ける事は容易ではない。これが、その理想的な配置だ、皆さんも是非参考にして欲しい・・・

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完成したボンネヴィルを新規検査の為に神戸の陸事に運んだ。真新しい現行車ばかりの陸事のライン、そんな光景を見ていると儚くなるのは私だけだろうか・・・そしてあくる日、彼のボンネヴィルを試運転へと駆り出した。

1965 TRIUMPH T120 BONNEVILLE 納車整備記録
適切な暖機運転を行った後、そろりと走りだす。「ズバッズバッズバッズバッズバッズバッ・・・」 走りながら各部の状態を観察するも中々良い音を奏でている、そのバイブレーションから間違いの無さが瞬時に読み取れる・・・「ズドッドッドッドッドッドッドッドッ・・・」決めた回転数ではあるものの、その範囲内で可能な限りの負荷を掛けていく。

1965 TRIUMPH T120 BONNEVILLE 納車整備記録
小一時間程度走った後で幾分大きくスロットルを開けてみる 「ズバッズバッズバッズバッズバッズバッ!・・・チャッ・・・ズバッズバッズバッズバッズバッズバッ!・・・」 狙い通りに各部が機能している・・・

1965 TRIUMPH T120 BONNEVILLE 納車整備記録
軽い車体に軽快且つ深みのあるエンジンフィーリング・・・「ズバッズバッズバッズバッズバッズバッ!・・・チャッ・・・ズバッズバッズバッズバッズバッズバッ!・・・」 コーナーの立ち上がりに来ると、どうしてもスロットルを開けたくなってしまう。慣らし運転だから自重はしているもののつい開けそうになる・・・それはユニット650の罠、オーナーのみぞ知る甘~い甘~い誘惑なんだ・・・

1965 TRIUMPH T120 BONNEVILLE 納車整備記録
そんな慣らし運転も順調にこなし目的地の京都府久美浜湾に着いた。こうして湖畔に佇んでいると私も思う事もある・・・ミーハーに皆さんが欲しいと言っている1963~1965年のモデルはバッヂの好みもあって欲しがる者が多い事は事実。しかし、前にも言っているが極度の販売不振に陥るこの時代は生産台数が少ない。今となっては需要過多気味で良いモノは市場に出回らない。

1965 TRIUMPH T120 BONNEVILLE 納車整備記録
私が勧めるのはやはり圧倒的に販売台数の多かった1966~1967年、或いはそれ以降1970年モデル迄だ。エンジンを開けても痛みは少なくポイントポイントへと設計的にも改良を施されたそれは今の時代の使用にも耐え易い。何よりも多い台数から選べる事はこの世界では大切な事、程度が良くても悪くてもモノがあれば即買わなきゃならないよりも、幾分の選択肢がある事、1966年以降にはそれが出来るからだ。

1965 TRIUMPH T120 BONNEVILLE 納車整備記録
だが逆に、初期モデルにこだわるなら徹底的にこだわればいいさ。欲しいモノを是が非でも手に入れたい・・・それもこの世界の神髄だ。但し、くどいようだが1963~1965のアーリーユニットモデルは程度が悪く泣きを見るのは君達だ。要するにレイターモデルに較べお金が無尽蔵に必要・・・潤沢な資金はもう既にある・・・保管するガレージもある・・・手入れをする時間も十分にある・・・それだけでも未だだめだ。本物のクラシックモーターサイクリストとは、個々の車体がどういう生涯を歩んだ来たのかを鑑み、それら傷んだ箇所への理解を示し、自分がその痛みを共有し、これからは俺様が生涯幸せな環境を整えてやるぞ!という深い々意気込みを持ち合わせた者を言う。只単に新車を買うように一点の傷にグダグダ言うような低レベルな者などおととい来やがれっ!ここは半世紀以上も前の機械を労わる心の無い者の世界じゃないんですよ・・・
 2018/11/06 布引クラシックス 代表 松枝

参考資料
試運転コース往路編


試運転コース復路編


一般道走行距離     279.2km
高速道路走行距離     32.4km
総走行距離       311.6km
使用ガソリン(プレミアム)   11.82L
燃費           26.3km/L

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