2019年03月20日

1975 TRIUMPH T160 TRIDENT 東京都H様 納車のご報告です。

「TRIUMPH T160 TRIDENT」 
1975 TRIUMPH T160 TRIDENT 東京都H様 納車のご報告です。
優れた設計力と高いデザイン性を武器に世界を凌駕したトライアンフ・・・しかし1950年代に入ると経営は悪化、バーミンガムスモールアーム社の傘下に入るなど、最終的にイギリス政府の公的資金投入と正に急坂を転げ落ちて行った・・・

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時に1968年、パリのモーターショーにデビューする「HONDA CB750Four」 ツインモデルが主流の時代に4シリンダーモデルを市販車に投入したホンダ・・・「なんてこった!」英国車界はとんでもない混乱に陥る。750インラインフォーの強烈なパワーに、4本マフラーからの吠えるサウンドに、輝くディスクブレーキに・・・たった一台のホンダが最早イギリス製ОHVエンジンなど耕運機の原動機だと成らずの底に突き落としたんだ。 (写真はK1)

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1970年代とは異次元的なパワー競争が始まる時代。紛れもなくモータースポーツでの勝利が会社の業績に直結する。レースで勝てるモノを作らなきゃメーカーは存続できない。古ぼけた鋳鉄製ツインシリンダーしか持たないトライアンフは一体どうするんだ?極度の経営難では予算もない時間もない、突貫工事で設計されたそれは一見するとツインモデルを踏襲するかのようなОHV750トリプルシリンダーに見えた、が・・・

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「修理出来ますか?・・・」 陸送便で届いたトライデント、見ると覇気もなく哀れな姿を見せている。何処を見渡しても大切にされていた痕跡が見当たらない。

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「ひどいね・・・止めた方がいいよ・・・」私は誰でも修理は受けない。一台のモーターサイクルを大切に想う気持ちがなければ絶対に仕事は受けない。これだけ傷めば時間も予算も必要だ。やる気が無いなら止めて欲しいと話した。「やってもらいたいんです・・・」彼を信じて私は仕事を始めた。

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まぁ・・・中も外もとにかく汚れが酷い。整備の基本とは先ずは洗浄する事。如何なる修理に於いても先ずは美しく洗う事。自動車整備の基本中の基本だ。

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トライデンの要である120度位相のクランクシャフト。ここは大事なので良く見て欲しい。今までのツインエンジンとは違い加工方法もフライホイール成分を取り除いた設計思想もこれまで貫いてきた手法とは全く違う・・・

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今までのツイン用の360度クランクシャフトに対して120度ずつ位相されるその意味が分かるかな?刀鍛冶のように大きなハンマーを「ドッスン・・・ドッスン・・・カーン・・・カーン・・・」と振り下ろしていたモノが腕の立つドラマーのように「トントントン・トントントン・・・」と大きくリズムが変わる。

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そしてトライデンの最大の特徴がこのクランクケースだ。普通精度を出す為にはケースは一体で機械加工する事が定石、ところが逆に分割する・・・

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この分割式クランクケースの組立にこそ作業者の真価が問われている。組む者のやり方次第で1/100ミリ台の精度が台無しになる・・・ここには高性能化との狭間で大きな理不尽さが存在するんだ・・・

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けれど、良く見ると設計的にも加工的にも以前よりも随分と洗練されているのが分かる。古いモノと新しいモノが混在する正に1970年代製だ。

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これまでの鋳鉄製シリンダーに変えアルミ製のシリンダーとなる。そこには鋳鉄製のスリーブが入る。高回転型となって増す発熱量、中央のシリンダーの冷却性を考慮すれば水冷化を除けばこの選択以外にない。

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アルミ製になってもピストンリングの重要性は変わらない。ピストン溝の縦方向にリングギャップに・・・オイルストーンを手にとり修正する。


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67×70mmのボアストロークとなったトリプル750。これがどうして劇的なパワーアップに結び付いたんだ。

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シリンダーヘッドには2バルブが3気筒分並ぶ。ここはツインモデルのほぼ流用と言っていい馴染みのある絵だと思うだろう?・・・形はそうなんだけど結果は全く違ったエンジンになる、そこが設計の面白さだ。

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このトリプルエンジンは、ツインモデルとは性格が違い低回転域のトルクが小さい。この機会にそれを改善する事も含めカムシャフトを変える。右がスタンダートのモノ、左が今回のモノ。このプロフィールの違いに 「おおっ・・・へぇー」 と言ってもらえれば有難い。

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ロッカーボックスの整備では気を付けて欲しい。この辺りの年式にボール式のバルブクリアランスアジャスターが使われ始めた。これに耐久性がない。廻るはずのボールが一箇所で停まり一面だけに摩耗が始まる・・・この写真の向かって右側がスタンダートのアジャスターで編摩耗しているのが分かるだろうか?

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左側のこれが通称マッシュルームと呼ぶアジャスター。当たり面がワイドになり曲面となっているのが分かるだろうか?ここには焼き入れの加工に加え硬質のクロームメッキ処理が施され赤いのはその下地の銅メッキの跡だ。これの効果は絶大でこのようなリフト量の大きなカムシャフトの場合の必須アイテムだ。

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カムシャフトを変える場合必ず作動角の確認が必要だ。ピストンヘッドとのクリアランスやドュレーションにロブセンター・・・自分の目と頭で確かめる事は、後に各場面でのヒラメキに必ず必要になるんだ。

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ギアボックスは御覧のように5スピードとなり、トリプルエンジンの特性にマッチする。低中速域にトルクの細い分をクロスしたギアレシオで補い効率的な走りにつなげる。ドライブギアにはブッシュに変えてニードルベアリングが入りこれもまた近代的な路線を歩む。

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刷新を受けたオイルポンプ。トリプルシリンダーにモータースポーツ性を持たせて販売を促したい・・・それにはツインモデルようなプランジャー式の貧相なポンプは使えない。大きなオイルクーラーに長いオイルラインに多量のオイルを送る為の大容量なトロコイド式ポンプは必然だ。

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そしてこれがひとつの花、英国ボーグ&ベック社製のドライクラッチだ。シングルプレートのその様は正に英国製四輪車そのものでモータースポーツを知る私のような者達には憧れの存在・・・信頼性は比べ物にならない程上がった反面、重量もクラッチレバーも重くなる・・・

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気が付いたと思うが、トリプルのクランクシャフトの何処にもフライホイール成分は無い。ツインモデルではクラッチの有った場所にその一部があり同一軸上の更に奥にある先の重いクラッチにそのフライホイール成分がある。要するにクランクシャフトからプライマリーのドリブン側に移した格好だ。だが、これではプライマリーチェーンに過大な負荷が常時かかる事になる。よってツインモデルよりも的確なチェーンの張りを維持する必要がある。

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アマル社製928の三連装キャブレター。トライアンフ初のマルチシリンダー用リンク機構。これは正直良く出来ている。この時代にこの状況でこれだけ出来る事は素晴らしい。只、この時代にスロットル操作の微妙さは認識されずどのキャブレターもスロットルが重い。ホンダもカワサキもどこもマルチシリンダーのスロットルは重いもの、そんな時代だったんだ。

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ツインモデルと同様のフォークで始まるT150だったが、後にアルミ製ケースとなる。T140等にも使われるこのフォークの注意点だが、普通ブッシュ等によるスライダー構造が存在する事が多いが、このフォークにはそうしたものが一切無くスタンチョン(インナーパイプ)が直接アルミ製のボトムケースに摺動する。更にここの摺動性は元々悪くフォークオイルの減少が致命傷になる。一年に一度、どんなに走行距離が少なくても点検交換が必要だと、ある意味現行車よりもシビアになる必要がある、それが1971年に始まるこのBSA系フォークの掟だ。

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その反面、リアサスペンションはツインモデルと変わらない。それどころかメインにサブの両フレームの構造に固定のスタッドの数や径に変化はなく、パイプ径などは一回り程度増した位で何ら変わらない。これは設計的に驚愕の事実だ。

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スイングアームもピボット部分に対するフレーム側を含めて変わらない。この辺り英国製メーカーらしさがあって実に微笑ましい・・・

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私は皆さんにステアリングは大切だと何度も言っている・・・このトリプルにはこうしたテーパーローラーベアリングが標準で入るようになる。これは増していく車重や制動能力に対応したもので操縦性能を上げる為のモノじゃない。如何なる場合にもステアリングとは俊敏性が求められ、接触面積の広いローラーベアリングは不利になる。

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只、剛性の低い分解式のボールベアリングではステムの位置に荷重によるズレが生じてしまう。その場合にこそ真円性を求めようとするテーパーローラーベアリングの優位性が発揮される。

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向かって右側が1975年製のトライデント、左側が1985年製のホンダGB500TTのモノ、これを見て皆さんは一体どう思う?149kgと230kgを支えるのにこの逆転している現実・・・

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こうして組むと何処にでもある只のモーターサイクルの姿だ。フォークの剛性は上がるものの、テーパーローラーベアリングで車重に対する強度は確保できているものの、肝心のステアリングステムはツイン時代と同じく華奢なままだと憶えて欲しい。

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この時代でモーターサイクルを売る為のスタンダートとなる前後のディスクブレーキ。これも酷い状態なので全てやり直す。只、現代と違い主となるパーツがスチール製である事。これが困る。

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幾ら古いモーターサイクルだと言っても絶対に手を抜けないのがブレーキ。ドラム式ならばごまかせるモノでも油圧式とあっては融通は利かない。丁寧に作業を進める・・・

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ホイールベアリングにも配慮が欲しい。オープンベアリングとシールドベアリンクとは、良い状態を維持出来れば選ぶ差はない。しかし、脱着の頻度を考えればシールドベアリンクが優位になる。古いハブの内面を守る為にもその方が良い。

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軽量なツインモデルと全く同じモノをセンタースタンドに用いる。なので変形し折れる。形を戻し溶接し元に戻す。この時少しの補強を入れてやる。これはかなり違う。

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プロップスタンドの付根もひん曲がり使えない。こうしてベースの部分を赤めて修正する。スターターモーターでの始動は良いが、スターターレバーを踏み込んでエンジンを始動する場合には必ずセンタースタンドを使って欲しい。

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これはルーカス社製のスターターモーターで英国の四輪車に使われているものと同型だ。出力は高く重いエンジンを軽々廻してくれる。但し全体で5キロもの重量がある、それもルーカス社製のラインナップから選択の余地はなかった。けれど悪いと思っちゃいけない。当時の精一杯の結果だとニンマリと受け入れるのがクラシックモーターサイクリストなんだ。

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現行車のモノと違いワンウエイクラッチ等は使わないのが四輪車的。こうしてピニオンギアが電磁式のソレノイドバルブを用い使用時のみ飛び出す格好だ。双方ともに入念な整備を施した。

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これはスターターリレーで見ての通りの機械式。コイルに一次電流を流して接点を導通させ、大きな二次電流を可能とする。これも接点のみならず端子の緩みをも修正しこれからの使用に耐えるようにする。そして、スターターモーターにバッテリーから大電流が流れる時、一時的に車体の回路の電圧は落ちてしまう。するとイグニッションでの発生電圧も落ちエンジンはかかりにくい。そこでこのリレーにはスターターモーターの導通時のみバッテリーから直接イグニッションへ電力を供給する機能も備わる。これによってスターターモーターをガンガン廻している時にもイグニッション=スパークプラグへの電力を確保出来るって訳だ、分かるかな?…

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電装系統はメインハーネスはもとより充電系統、点火系統、始動系統も全て手を入れてい万全を期す。こうしたマスタースイッチ、その他ハンドルスイッチなどオーナーが直接操作する箇所の修復も全く手を抜かずにやり通す。

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その他多くの作業を施し、エンジンをかけた。「グッ・グォングォングォングォン…ドッオオオオーーーーン!…」抑えて静かにエンジンをかけ始め暖める…こうした時私はひとりだ…けれど感動の時にはひとりが良い…

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翌日神戸の陸運局で継続検査を受ける。ナンバープレートは勿論「品川ナンバー」だ。これでやっと走れる準備は整った…

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3千回転でクラッチをミートし走りだす。「グッオオオオーーーン!…コチョン…グッオオオオーーーン!…」重い車重は感じない、スルスルっと押し出してくる。今回の慣らし運転では3千回転~最高3.5千回転としている。するとトルクの増した感触がおもむろに分かるにも関わらずスロットルを戻さなきゃならない…これは辛い。

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「グッオオオオーーーン!…コチョン…グッオオオオーーーン!…」ならばこっちも頭使って3.5千回転の中でその良さを目一杯に引き出してやる!「グッオオオオーーーン!…コチョン…グッオオオオーーーン!…」モディファイしたエンジンの素性の良さの片鱗は見る事は出来た。そして、先に言った車体のバランスを見てみよう・・・ストレートをフルスロットルで進みコーナーの手前でフォークを沈めガツーンと倒し込む。「ズッドゥゥゥーーーン!…コチョン…ズッドゥゥゥーーーン!」

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するとヨレヨレッとステアリングはドリフティングを見せる。エンジンブレーキからパーシャル状態で旋回し、更に加速しフォークを沈め旋回するとまたもやステアリングは限界を見せて来る。これが実に面白い!現行車のような強靭なフレームにラジアルマウントか何だか知らんが巨大なブレーキつけてサーキットを走るならまだしも一般道をチンタラチンタラ走ったって何の限界も見せやしない。それよりもこんな古典的な鉄馬が一般道で限界を見せて「うわー!もう無理だよ!…」ってトライデントが私に言ってくる。「ゴメンゴメン!…ペース落とすからっ…」 クラシックモーターサイクルの醍醐味って正にこれなんだ。

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こうして二人で走る事はかけがえのない時となる。重いスロットルは本来欲しい敏感な調整を阻んで来るけれどそれを跳ね除けて走ってやらなきゃこの子の良さは出せやしない。「グッオオオオーーーン!…コチョン…グッオオオオーーーン!…」分かるかな?私の今の幸福感が?…ツインモデルには無いトリプル750の絶対的に向上した高性能さに酔いしれているこの感覚が?…このように三気筒となったトライデントは650ツイン時代とは全く違う絶対的な高性能さを身につけたんだ。

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仮に650ツインでホンダの4シリンダーを追いかける気にもならない程に差がある。しかし、このトライデントならついていける。けれど当時は予算もない、時間もない、人材もいない・・・その中での理不尽さがエンジンの中心以外のところに散在する。もう一度言おう、皆さんの言う「ツインと同じじゃん・・・」と言ってるクランクからシリンダーヘッドまでの中核部分は飛躍的に高性能化を実現させ別物と化した、そこじゃないんだ。プライマリー系統から重い四輪車用のクラッチに旧式のままのギアボックスのシフト機構・・・これら側の部分に他を超えるほどのモノを作る力が倒産寸前のNVT社には無かった・・・その結果、総合的なラップタイムとしての性能がホンダには全くかなわなかった、パワーだけでは勝てないんだと・・・4シリンダーから6シリンダーまでマルチシリンダーをサーキット場で完成させ大きなパワーをライダーが如何に有効に使えるかが重要か、そしてそのレースの成績がメーカーの存続の鍵なんだと知っていたホンダ、対して過去の業績に胡坐をかきモータースポーツをメーカーとして殆ど行わなず販売市場だけを見ていたトライアンフ社との差が致命傷となったって訳なんだ・・・だけれども、私はこのトライデントが大好きだ。当時のNVT社のメンバーが大英帝国の威信をかけて限られた条件のなかで血眼になって挑んだ後発メーカーへの挑戦・・・だがドラマのように物事は上手くなんか行かない。ここにクラシックモーターサイクルの哀愁だ漂う・・・「頑張ったけど駄目だった?・・・そんな事はない、やらなずに終わるより良かったじゃないか。ホンダと戦えるОHVエンジンを完成させたのは君達だけじゃないか・・・」今私は彼らにそう言いたい、これこそ真のクラシックモーターサイクル、英国車の誇りだと私は思うんだ・・・

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「ザバーーン…シュワシュワシュワ…」走りだしてあっという間に目的地の京都丹後半島西部にある夕日ヶ浦海岸に着いた。こうして海を見たいるとふと思ったりする・・・きっと皆さんにも思い出があるはず、私にも子供の頃の思い出があるさ・・・サーフィンなんて今のようにカッコイイモノじゃなかった時代。サーフボードにウエットスーツをもって夢中になって波に入った。「ザッバーーーーン!…」それこそ波があればどこでも飛び込んだ。若さ故に流されて帰らぬ人となりかけた事も何度かある。「人生とは自然とはそんな甘いモノじゃない…もっと成長しなきゃ…」波乗りを通じ人間として大きな々教訓を得た日々…それは私のかけがえのない青春の一ページだったんだ…

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そして東京からオーナーのHさんが来てくれた。朝早く新幹線に乗って京都駅へ、そこから在来線で園部駅までと。店でひとしきりの話をして説明して…そしてエンジンをかけてもらった。
「グッオオオオーーーン!…」スターターモーターも一発でエンジン始動し快適なサウンドを奏でている。

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そして、二人で京都循環道のインターまで一緒に走った。こうして納車の日に二人で走る事はとても大切な事だ。思いを共有できる思い出の時間…何も言わなくても通じ合える事ってモーターサイクルに乗る誰しもが知るあの感覚。

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そして彼が帰っていく…これから京都に滋賀県に三重県、愛知県に長い静岡県に神奈川まで超えて東京の世田谷まで帰っていく…「天気が悪くなきゃいいけどなぁ…」 念じるように彼の姿を追った…「ありがとう…Hさん…」

1975 TRIUMPH T160 TRIDENT 東京都H様 納車のご報告です。
最後に言いたいことがある。私は彼のトライデントを今も私の家族だと思っている。「トリプル…風邪ひいちゃだめだぞ…」そう言って毎日工場を後にした。「ずっと居ればいいのに…」 「…うん…居るよ…」 仕事が遅くなってふたりで過ごす時、こうして会話もした。
最も私は単にバイク好きだと言ってる皆さんに対して好感など持ち合わせていない。平然と飽きれば買い替えればイイという…だが、我々のような作り手の想いを考えたことがあるかい?傷み汚れたエンジンを降ろし、完全に整備し、調子を整え、一日走り続けて…「やっと調子が良くなったんだ、大事にしてもらえよ…」 手放したくなんかないさ、この目頭が熱くなる感覚を君達は知っているのか?どんなモーターサイクルでもこの世に生まれた命なんだ、なにをお前達に粗末に扱う権利が、そんなモノが一体何処にあるんだ?…

1975 TRIUMPH T160 TRIDENT 東京都H様 納車のご報告です。
傷んだトライデントは多い、手に負えず朽ち果てているモノが多い事も知っている。どうか皆さんに願いたい、今万が一このトリプル750を所有しているならいつの日かもう一度命を与えてやって欲しい。傷つき病んだ彼らをどうかもう一度走らせてやって欲しい。ツイン650モデルの陰に潜んでしまったトリプル750の小さなうめき声を絶対に絶やして欲しくはないんだ…
そして、改めてそんなトリプルのレストア作業を最後まで待ち続けてくれた世田谷のHさんに心から感謝したい。ふたりでトライデントの命を守れた事、私とHさんの大切な宝物、いやトライデントと三人との大きな勲章だと私は思っている…Hさん…トライデントを守れるのは君だけなんだ…
2019年03月20日 布引クラシックス 松枝

後日、Hさんよりメール頂きましたよ。

「松枝さん、昨日はありがとうございました。
半日だけのすこし慌ただしい訪問でしたが、マシンの仕組みとメンテナンスの方法をじっくりと教えていただいてすごく勉強になりました。
東京までの530kmは途中休憩を3回はさんで、9時間くらいかけて走りました。日が落ちてからはかなり冷え込みました。次はもっと暖かい時期に走りたいですね!
エンジンは終始快調で不安もストレスも全く感じさせません。自分にとって1日の走行距離としては最長の距離でしたが、思いの外疲労感は軽くて、そんなことからもマシンの仕上がりの良さを感じました。
移転の話ですがしっかり宣伝しておきます!これからもよろしくお願いします。 Hより」

私の言葉です。
「こうしたお礼ってのは整備士冥利に尽きますねぇ・・・これからの仕事の励みに私も更に精進して参りたいと思ってますよ。ありがとうHさん、頑張って!・・・松枝」

・試運転コースは以下です。


・参考記録
一般道走行距離・・・・・・・・243.2km
高速道路走行距離・・・・・・・・・40km
総走行距離・・・・・・・・・・・・283.2km

ガソリン(無鉛ハイオク)・・・・18.4L
燃費・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15.36km/L

燃料タンク容量・・・・・4.25gal(Imp.) 19.3L
(※・・・約16リットル使用するとして245km毎の給油が目安)






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